『致知』が易しくならなかった唯一の理由


僕がこの5年ほど、毎月欠かさず読んでいる雑誌があります。

その名も『致知』。最初は読めませんでしたが、『ちち』と読みます。少しだけドキドキしますね。

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(出典:致知出版社

さてこの雑誌、日本で唯一の人間学を特集した雑誌なのですが、書店では売っておらず、定期購読になっています。出版社が出してるのに書店で買えないなんて・・・

一見して分かると思いますが、表紙にはおっさんやおばさんしか出てきません。勿論全員スゴい人なのですが、間違ってもトムクルーズやジョージクルーニーのようなハリウッドスターや、嵐のようなアイドルが表紙になることはありません。

これだけでだいぶ潜在購読者を失ってると昔は思ったものです。というか、とっつきにくすぎて、購読を薦められてから、足かけ3年ほどは全く手につきませんでした。

一見するとちょっと疲れ気味な見た目で、しかしハンパではない困難な道のりを経て成果をたたき出してきた日本の現代の偉人たちが、これでもかというほど出てきます。が、そのほとんどが文章で、図なんてほんのたまにしか出てきません。

20代の多感かつ敏感な時期にこれを尊敬する方から薦められ、しかしあまりの文字の多さをおっさんの多さに、数年単位で辟易してたのもうなづいてもらえるのではないでしょうか。20代では、こういった雑誌よりも、ジャンプやマガジンの方が楽しいのです。(小学生から変わらず)

が、そうはいっても尊敬する方の薦めなので意を決して読んでみたところ、これがめっぽう学びになりました。自分に足りないと思っていたことが全て書いてあり、どの号も本質的なのに陳腐ではなく、過去と現在と未来のどの時点においても一貫して大事にすべきことが綴られていました。

そんなこんなで、飽き性の僕が、購読しはじめてかれこれ5年になります。

偏見があるかもしれませんが、欧米式の派手な成功と凋落よりも、長期的、漸進的な成長を目指す方は、この雑誌、読んでみてください。きっと、人生や仕事で大切にしなければいけないもののいくつかは見えてきます。

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さて、縁あってこちらの致知出版社の藤尾社長の講演を拝聴する機会がありました。その中で藤尾社長がお話されていた、こんな話がとても印象に残りました。(2ヶ月前の話なので大体のイメージですが)

まだ致知がほんの数万部しか読まれていなかった頃、ある有力な方から、

『致知を若者にも読ませたいと藤尾社長はおっしゃるが、だったらなぜもっと易しくしないのか。表紙も古くさいし、内容も難解。もっと取っ付きやすく、易しく読める雑誌にしてくれれば、うちの息子や会社の人間にももっと薦められるのに。』

と言われた。もっともな指摘だ、と私は思ったが、しかしこう切り返した。

『どこが難しいんだ。難しいからこその致知だ。難しいからこそ、それを読めるレベルまで上がってきてほしい。易しくしてしまったら、それこそそんなレベルのものしか読めない若者ばかりになってしまう。そうなったら日本は終わりだ。』

 

数年前から考えていた謎が解けた瞬間でしたね。致知には、現代の偉人の信念や志の話だけでなく、四書五経や歴史の話も頻出します。『んなもん知るかい!』という、先人には大変失礼な知識しか持ち合わせていない20代でしたし、そもそも最初は興味もありませんでしたから、読むのに大変苦労しました。

英語がある程度出来るようになると、『英語は聞き取れるけど文脈が分からないので意味が分からない。』という現象が起きます。一つ一つが聞き取れても、全体として自分の中で意味をなさないんですね。それと同じで、日本語が読めない訳じゃないけど、言ってる意味が分からない。

でも、心のどこかで、『これはきっととても大事なことが書いてあるぞ。』と、必要最低限のアラートが鳴っていたので、なんとか読み続ける事が出来ました。そして、いつしかそこに書いてあることのほとんどが分かるようになりましたし、自身の経験と組み合わせて全体像を把握することができるようにもなりました。

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娘の話ですが、うちの子は女の子なので、『プリキュア』が大好きです。お花畑や、マウンティングをしない女子が一杯出てきて、それはそれは微笑ましいアニメです。親の財布の紐を何回もほどこうとするのはやめてほしいですが。

で、数ヶ月に一度はプリキュアの映画があるので、それを観にいかされるわけです。大体2回から3回は同じのを観ます。一種の援助交際ですね。

一方、プリキュアだけではなく、大人でもそれなりに難しい『テルマエロマエ』や『思いでのマーニー』を一緒に見たり、家では『天空の城ラピュタ』を見たりします。

そうして、敢えてそれなりのレベルのものを見せることで、自然と国語のトレーニングになるよう仕向けています。テルマエロマエを観たあとは、

『あのおしりからおならぶーってしたひとのえいが、またみたいねー』

と言ってきたり、ラピュタを観たあとは、

『どうしてさっきパズーはシータとさよならしたのにたすけていったの?』

と聞いてきたり、理解出来ていることは極めて断片的ですが、しかしこちらが思ってるよりはるかに多くのことを、娘は把握しています。

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子供を相手にするときに、膝を折って手を携えて、子供が全部分かる言葉で話しかけることだけが、子供のためになるわけではありません。

敢えて大きめの服を着せることで、子供はいつのまにか、その服の大きさに合うよう成長するのではないでしょうか。

感覚的には、3割程度理解できていれば大体の内容は分かるので(テルマエロマエで言えば、『裸の男の人がおならぶーしてゴボゴボいって誰かと戦う』。ラピュタで言えば、『パズーとシータがラピュタにいくときにおばさんと仲良くなってお空に飛んでって、バルスって言ったらなんだか全部バラバラになった』程度のあらすじでOK.)、残り7割に関しては少し努力したり、反復したりすれば理解出来るようなレベルのものを常に目の前に提示してあげて、本人が

分からないものにチャレンジしてそのうち分かるのが楽しい

と思えるような環境を用意してあげられたらと思います。

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子供に対しては当たり前のようにこういうことをしている親御さんは多いと思いますが、致知が敢えて難易度を下げずにやってきたことも、まさにコレでした。

そう考えると、人間は大人になればなるほど視野が狭くなり、分かるものにしか価値を見出さなくなってしまうのですが、本当は

分からないことにこそ、成長のカギが眠っている

のかもしれませんね。

『分からない』ということについて、僕も確かに避けてきました。でもこれからは、『分からない』に娘のごとく猪突猛進していく所存でございます。

 

 

 

 

 

そんなわけで一人では絶対に行かないであろう、『ロボットレストラン』なる異様な場に逝ったんですよ。また書きますけどね。

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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

引かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!

我が人生に一片の悔いなし!!!

 

 

 

錦織選手が全米オープン準優勝に終わった理由かもしれない理由


我らが錦織選手がグランドスラムのUSオープンで日本人史上初の準優勝に輝いてから、はや2ヶ月が経とうとしています。

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日本全体が錦織選手の決勝進出に歓喜し、そして残念ながら準優勝となったことに落胆したことと思います。元プロテニス選手の弟を持ち、自身も一時期テニスをかなり真剣にやっていた身としては、本当に誇らしい気持ちになりました。

で、あの準優勝のあとに、一応色々な人が分析している記述を見たのですが、誰も触れていなかったであろう部分について、個人的に思うところを書いておきたいと思います。

題して、錦織選手が準優勝に『輝いた理由』ならぬ、『終わった理由』。

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三度の飯の次ぐらいにバカが好き


 

三度の飯よりバカが好きとは言えないけれど、三度の飯の次ぐらいにバカが好きというお話。

皆さんの周りには、どれぐらいの程度のバカがどれぐらいの数いますでしょうか?

過去、僕の周りには、賢い人はいても、あまりバカはいませんでした。

高校の時など、一年生や二年生のときから東大A判定みたいな化け物ばかりいて、自分が本物のいない限られた世界で調子に乗っていたんだということが、よく分かりました。

そんななか、唯一コイツは自分よりバカだなと思ったのは、高校3年の学内テストで偏差値8を僕が取ったとき絶望していたときに、隣で偏差値5の成績証明書を振り回して歓喜していた東尾くん(彼の名誉のために仮名としますが、関係者には推測できるはず)。

ちなみに彼は元々頭が良く、結果的にはそこから結構勉強したらしく、W大学に旅立っていきました。その後消息不明ですが。

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他には、大学でサークルに入った時の合宿で、部内で誰もが認める実力者のパイセンが、泥酔して寝ゲロならぬ寝◯ソをした後、引きずられながら食堂に現れたときは、リスペクトすべきバカだなーと思いました。僕もインドで寝◯リをしているので、目くそ鼻くそを笑うですが。(前者には『ガ行』の3番目が、後者には4番目が入ります。)

あとは、同じく大学のゼミに入ったときの合宿で、ビール瓶を尻の穴で持ち上げようとして何度か出し入れしているパイセンがいました。そしてチームワークを見せようと思ったのか、別のパイセンが腕立てしながらその瓶を口に咥えて持ち上げたときは、ハンパねーバカだと思いましたね。

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そんなわけで、各年代において周りにバカがそれなりにいたわけですが、寂しいのは、大人になるにつれ、そんな『バカ』が質、量ともに減っていくことです。

出来ることが増える分、どこかでリスクを回避していくことが当たり前になってるんでしょうね。

そして、昔は意図せずとも周りに存在したバカが、ともすれば全くいなくても生活出来てしまうことに一抹の寂しさを感じた僕は、この数年、自分から積極的にバカを探してきたような気がしています。僕自身も極力背負える範囲のリスクを背負い、バカをやってきたつもりです。節度あるバカですが。

体重87kgもあるのにダイエットせずにフルマラソンをしてみたり、ウルトラマラソンやトライアスロン、果てはアイアンマンまでチャレンジしてみたり、その結果1kgしか痩せなかったり、最近では最も苦手とする分野の一つである囲碁にチャレンジしてみたり、まともな人から見たら、それなりのバカかもしれません。

が!世の中には、自分程度の常識では測れないバカな人というのがいるもんなんですね。真似したいけど真似できない、憧れるけど実践出来ない。そんな愛すべきバカが、僕の周りには沢山います。

・朝4時に起きるのに一日2時間しか働かず、人生を謳歌しているバカな人

・独立する前に仕事を辞めちゃって、そのまま結局何もしなかったバカな人

・年収を1/10にして英語も現地語も出来ないのにミヤンマーに事業をしにいったバカな人

・今年は毎月ウルトラマラソンを走ってるバカな人

・畳めない大きさの風呂敷を毎日広げまくるバカな人

・たかだか3日間のセミナーに30万も払うバカな人

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色んなバカがいるわけですが、今回ご紹介するのは、極めつけのバカ、まさにキングオブバカ、RED赤山氏。名字が赤山なのに、ニックネームをREDとしている時点でかなりのバカでしょう。

 

一言で言えば荒唐無稽、そして口頭無形。生き方は荒唐無稽そのものであり、口から出てくる情報はいつも形がないというか無茶苦茶。

彼と初めて逢ったのは2012年の11月。上記の3日で30万払うセミナーでのことでした。まだややぽっちゃりしていたREDは、『僕、これから走るんですわぁ、いや、絶対走るんですわぁ。』と言っていました。

なんのことかな、と思ったら、『サハラマラソン』を走るとのこと。総距離1週間で250km。サハラ砂漠を走るマラソンです。当時走ったことがほとんどないということでしたが、いきなりサハラに突っ込むあたり、コイツ、すげーなと思いました。

実際REDは1年半後の今年、サハラマラソンにチャレンジし、しかし残念ながら途中リタイヤとなっていました。そのときのリタイヤの様子を必ず皆さんに報告します!とウェブ上で言っていて、しかし半年経ってまだその理由は聞けてません。

REDはなんだかんだあって2012年当時、ベトナムで現地法人の社長をやっていて、セミナー後にベトナムに返ってから、実際は毎月300kmという距離をほとんど休まず走っていました。有言実行を地で行く漢だなと思ったものです。

そういえばセミナーの時、『日本に戻ってくることはないの?』と聞いたら、色々想いがあったらしく、『150%あり得ませんね!僕はベトナムで暮らしますから!!!』と言い放ってました。僕が知っている限り、その後2年間で数回日本に返ってきてましたし、今のREDはベトナムの家を引き払って日本にいます。口頭無形な漢だなと思ったものです。

 

そして今、そんな荒唐無稽で口頭無形漢なREDが何をやっているかというと、

 

 

日本縦横断3000kmを60日で全部野宿しながら完走するプロジェクト

 

をやってます。お金をクラウドで集めながら、そうはいっても資金的な制約から全部野宿しながら日本を北海道から鹿児島まで走破するとのこと。一日平均、なんと50kmです。

ハンパなくないですか?

僕の知る限り、早速二日目にしてお金払って宿に泊まってましたが。

まさに荒唐無稽です。というか、『バカ』です。

***

そのREDが東京についに到着するということで、仲間を集めて歓待したのが先日。写真の通り、真っ黒に『汚れて』いて、常人には醸し出せないオーラを振りまきながら、集合場所の中華料理店に姿を表しました。

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もうね、その場にいた人にもスゴい人がいるわけですが、REDの空気感は別格。なんだか少し見ない間に、覇王色の気を身にまとってました。

僕たちは一般人です。3000kmなんていうおバカな挑戦をしているREDに、色々聞きたいわけです。民が何人か、勇気を振り絞ってREDに色々聞きました。

民1:『3000kmも走るって、どういう気持ちなんですか?』

RED:『どういう気持ちって、走るしかないんですよ。』

 

民2:『苦しいとき、どういうふうに自分を奮い立たせるの?』

RED:『どうもこうも、とりあえず走るしかないんですよ!』

 

民3:『3000km走り終わったら、次は何するの?』

RED:『うーん、でもやっぱ走るしかないんですよ!!!』

 

一体何がREDをそうさせているのか、なぜそこに至ったのか、3000km走るなかで見えてきた者は何なのか、僕たちでも日々に応用できる考え方とは何なのか。

知りたいことは沢山ありました。興味津々でした。

しかしREDから出てきた答えは、全て、

 

 

走るしかないんですよ

 

やりきってる人間、全力を尽くしている人間というのは、常にシンプル、そしてブレないというのは、僕もなんとなく経験則から知っていましたが、REDはまさにそれでした。

とにかく走り続けること。考えても悩んでも走り続けること。

これが、REDが唯一自分に課していることでした。バカ過ぎて、みんなしばらく唖然としてました。でも、何かに没頭するという、一種の理想の姿を見た気がします。

***

僕は、最近頓に、こういうバカに定期的に逢うようにしています。

色々なバカがいますが、結局のところ、自分の器の小ささを毎回痛感し、何か目指すところにたどり着くためのエネルギーをもらい、そのギャップを埋めるために一歩を踏み出す。

それをしなければ、バカどころか平凡そのもの以下の人生しか手に入らないということを、このバカな漢たちは教えてくれます。

こうも言えます。バカな人たちというのは、そうそうバカが出来なくなってしまったチキンな僕たち一般人の夢を乗せて、子供の心のままバカをやり続けてくれる、夢列車みたいなものなのです。

REDの最終目標は、10万kmを走ることだと言います。月300kmとして、30年かかる長さです。10万km走ったら何か見えるかもしれない、とREDは言いますが、器の小さな僕はそれが100kmじゃダメなんだろうかと思ってしまいます。

でもそんな荒唐無稽でバカな目標を、恥ずかしげもなく、むしろ誇らしげに口に出来るREDみたいなバカを、僕は心底応援しています。僕は10万km走れないけれど、その数十分の一ぐらいは頑張って一生をかけて走っていくつもりです。

みんなの夢を乗せて、走れ!RED!

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

早く定職に就いて、僕たちに安心の報告を。

 

※RED赤山氏のサポートファンディングの受付はこちらから出来ます。日本縦横断3000km、そしておそらくは将来の地球一周に向けて、サポート、応援したいという方は、こちらからアクセスしてあげてください。

バカに触れると、バカが感染ります。どこか煮え切らない、不満はないけど挑戦もしてない貴方のために。

http://red53108.com/support/

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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

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我が人生に一片の悔いなし!!!

 

 

 

 

トレイルランニングから分かる人生の要諦


 

トレイルランニング、始めました。

マラソンから始まりウルトラマラソンへ、トライアスロンから始まりアイアンマンへ、それなりに無茶なチャレンジにこの1年を投資してきたわけですが、そろそろ次の目標をばということで、トレイルランニングに挑むこととしました。

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久々にタイトル負けしてる良本に出逢った話


僕、こういう類いの本にたまらなく弱いんです。

中身なさそうでしょ?実際ほとんどないんですが。

ただ著者が筋トレしてるだけの本でした。

あとこれ。

哀川翔が早起きしてクワガタいじってるってだけの話でした。

そしてついに出逢ってしまいました。超ド級のタイトル負け感たっぷりの本がこちら。

 

どうですか、この中身なさそうな感じ?もうたまらんですね。

ですがあまりにタイトルが刺激的なのと、武田真治がいいカラダしてるので、ついついいつもの癖で買ってしまいました。

結論。

『武田真治』と呼び捨てしてたのが、『武田真治サン』になりました。

いやー真治サン、半端ないです。

確かにここ最近、めちゃイケでも筋肉バカキャラで出てくることが多いですが、そういえば僕の知っている真治サンは、細くて白くてややキモい俳優だったはず。

いつのまにこうなったのだろうと思いながらページをめくっていくと、苛烈な保険業界でもなんとか生き残り、走り始めて1年でウルトラマラソンやアイアンマンを完走した今だからこそ、震えるほど同意できる金言がいくつもちりばめられていました。

ちょっとご紹介。

充実したストーリーが刻まれた肉体は、言葉より饒舌にあなた自身を語る

肉体は名刺

どんなお金持ちでも厚い胸板はお金では変えません。鍛えるとは、苦しみや痛みに耐えること。だから鍛え上げられた胸板はどんな仕事においても、男にとって人となりを証明する名刺となり、その人が地道な努力を惜しまない強い人間であることを雄弁に語るのです。死ぬほど努力しても、一週間では厚い胸板は作れません。

以前はいかついタイプの人が苦手でしたが、今では肉体が仕上がってる人こそ信用できる人

強くなる、ってのは、心の成長も必ず伴わなければならない、思っていたより無様な時間の中にあるものでした。時に滑稽であり、時に時間の中にあるもの

人が人生で大事な何かを失うとしたら、ほとんどが突発的な感情による言動が原因になるのではないでしょうか。

運動を始めたことはできれば秘密にしておいてください。〜中略〜 なぜなら、まだ大きく結果が出ていない人の『運動を始めた話』ほどうっとうしいものはないからです。

他者へ誇っていいのは、いつの日か変わった心と身体だけ。

走るときにぜひ覚えておいてほしいのが、初めの一歩が最も辛いという事実。

緩んだ身体で生きるのは、ほどけた靴ひもをそのままにして人生を歩んでいるようなもの。

筋肉痛も出ない運動はトレーニングとは言えません。

『武田さん、いいですか。ボクシングでは左腕を伸ばして、距離を測って右手でとどめを刺します。左腕で距離を測ったとき、相手が左腕の範囲より外にいるときは、とどめのパンチを出す必要はないんです。』『ボクシングでは、左を制する者が世界を制すると言われています。その意味、分かりますか?』『だから人生も左腕を伸ばした範囲に踏み込んできた人間に対してだけ、対応すればいいんですよ。遠くから野次を飛ばしてくるような人間に反応する必要はないんです。』(ボクシングジムでプロを目指している時に元世界王者井岡氏に言われた言葉)

限られた時間を真剣に生きるから人は美しい。夢を追うにもタイムリミットがある。

男は自分の体重と同じウェイトを挙げて当たり前、1.5倍挙げて一人前、2倍挙げられたら力持ち

半端なくないですか?真治サン。

多少なりともこの一年間、フィジカルを鍛えるということに注力してきたからこそ、僕にはこの本の表紙の真治さんのカラダが、いかにすさまじい努力の上に成り立っているものか、よく分かります。

ちなみに僕はこの一年で1500km以上走ってきましたが、体重85kgが1kgも変わっていません。バスケでもシュートよりリバウンドが得意なのです。

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発見がもう一つ。

やはりストーリーは人を惹き付ける、ということ。

エベレストに登った人が撮影した8000m級の山頂からの景色という『到達点』よりも、そこにどうやって至ったかのドラマ、すなわち『過程』の方が、絶対に面白いのと同じ。

真治サンがただただベンチプレス110kg挙げますよという話であれば、本当につまらない駄作で終わったはずなのですが、そもそも40kg台の体重だった時期もあって、鍛えてるヤツが嫌いで、世の中全てを敵に回すような振る舞いをしていても祭り上げられる立場にいた頃から、どうやって今の表紙のような姿になるに至ったのか、それが赤裸々に語られていて、本当に面白かったです。

真治サンがサックスをやってたのは知ってましたが、芸能界に入って趣味程度にやってるのかと思ったら、そもそも芸能界入り前からプロを目指してやってるほどの凄腕だったんですね。ボクシングもプロを目指すレベルだったってこと、初めて知りました。

ちなみに、最初の二作は完全にタイトル負けしてましたが、この本も内容は良いけど同類だなと思ったのは、

優雅な肉体が最高の復讐である理由がどこにも書いてなかった

からです。たぶん、キワモノ好きな幻冬舎の編集者さんが勝手につけたのでしょう。

 

そんなわけで急に燃え始めた僕は、またいつものごとく風前の灯火なやる気であることを承知の上で、東京体育館にベンチプレスをしに向かいました。まずは体重を。そしてゆくゆくは体重の1.5倍、2倍を挙げて力持ちになるために。

 

 

 

 

 

月に2度しかない休館日でした。

 

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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

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インド5弱の衝撃!8年ぶりに行ったインドの話 その12


8年ぶりにインドで逝ってきました。今回は随一の経済都市ムンバイ。

全く変わっていないインド、大きく変わったインドの両方が楽しめた旅でした。

インド5弱の衝撃をどうぞ。日本が抱える問題点の解決策を持ってる気がするのは気のせいだろうか。。。

***

※主な登場人物

トミー(Tommy):世界屈指の外資系コンサル会社に勤めるエリートな漢。ふとしたきっかけからムンバイに赴任することとなり、今回の旅のホストして活躍。なぜか僕に色々と相談してくる。語学が堪能。ランチームアドミラル所属。

マッチ:某ITベンチャーの若きエグゼクティブVP。カラオケで必ずマッチの曲を歌うところからマッチと呼ばれている。体型もマッチ棒っぽい。息を吸いながら話し続けることが出来る特技の持ち主。ハートが異様に強い。語学は堪能とは言い難いが、魂で話す。

ザック:公認会計士に教える公認会計士。フルマラソン3時間30分切り(サブ3.5)まであと8秒というとても惜しい漢。会計士仲間の先輩には『おしゃべりクソヤロー』言われるほど普段は饒舌で僕から見てもとても話が上手いのだが、今回の旅では貝になっていた。ランチームアドミラル所属。語学は堪能に見えていたのに、結構とんでもない実力だった。

エンペラーの会:僕が主催する勉強会。共に学ぶ同志。

三人に共通するのは、全員心から尊敬すべき漢たちであり、卓越したビジネスパーソンでもあるということである。

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インド5弱の衝撃 ムンバイ最大のダラヴィ・スラム

待ち合わせ場所にいくと、ダラヴィ・スラムツアーのガイドであるトーマスが近づいてきた。体格はがっしりしているものの、肌つやがとても良く、笑うと4万ルピーの笑顔を見せてくれる。年齢は全く分からないが、少年のような笑顔のふとっちょだ。背中の膨らみ具合からも、De部への勧誘をリアルに考えたいぐらいだ。

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他には妙齢の女性fromシンガポールが1人と、どこからどう見てもビートルズ好きなイギリス人の青年4人組がいた。妙齢の女性はいろんな意味でバランスの取れた人だったが、この4人組はクソ野郎だということが後で判明した。一人はTシャツにビートルズと印字してあり、一人は見た目がジョンレノンジョンベリーマッチしていた。

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スラムに入る前に、概要をトーマスが説明してくれた。

非常に長い説明だったので、ちと英語のヒアリングが怪しいところもあり、トミーに確認しながらフォローすることとなった。

もしここにないすとぅみーとぅなザックがいたら、イエスしか言えずにスラムで昏睡状態に陥っていたことと思うし、もしここにマッチがいたら、イギリス人に魂の嫌悪を感じて日英戦争に発展していたことと思う。マッチは、僕たちには優しいが、外敵には厳しい。二人がいなくてある意味良かった。。

トーマスが説明してくれたスラム情報概要は以下。(数字とか特に間違ってるかもかも。)なお、写真はほとんど撮っていない。スラムに住む人たちの生活を守るために、NGとしているとのこと。こんな配慮があったことに驚き。

・ムンバイの人口2500万人(公称1200万なのに、周辺合わせるとそのぐらいらしい)のうち、55%がスラムに住んでいる。1995年には70%以上がスラムに住んでいたので、少し減った。

・ムンバイの警官も40%がスラム住まい。

・商業地区のほとんどの人は、ムンバイ周辺地域から、農業の合間出稼ぎに来ている。ムンバイには乾季と雨季(モンスーン)があり、農業のはかどるモンスーン時期には、みんな農業で忙しいためスラムの人口が一気に減る。

・スラムには、ムンバイが栄えはじめた頃から400年以上の歴史がある。政府公認のものと非公認のものとがあり、政府公認スラムには電気も水道も公式に通っている。勿論料金も発生している。

・『スラムに住む』とは、イコール貧困ではない。勿論金持ちではないが、本当の貧困とは路上にある。スラムに住むには、家賃も発生するし水道代もかかるので、それなりの資格が要る。

・犯罪は極めて少ない。非常に安全。繰り返すがムンバイは女性が夜に一人で歩ける街。ただし、マッチだけは弱そうに見えるのか、子供にお金をタカられていた。

・プラスチック製品エリア、織物エリアなどとエリアごとに機能が別れており、プラスチックエリアの住人の収入は1日200ルピー(=340円)ほど。工場はオーナーと従業員に別れており、いわゆる普通の資本主義社会が形成されている。

・医者弁護士でもスラムに住んでいる人間がいる。そういう人は、BMWを持っているのに、スラムに住んでいる。

・僕たちが見たプラスチック産業区域に限らず、ここのスラムのほとんどはグローバルな会社との結びつきがあり、そこに製品、原料を供給している。スラム内のビジネスプライバシーは完全に保たれており、例えばある店舗の品の納入先がどの会社かということは、全く明らかにされていない。スラムの製品を最終的に購入する大会社が、直接スラムの各店舗と取引をするようになると、大対小の戦いとなり、搾取が始まる。そのため、スラムの各店舗はスラム連合的な組織に一度納品し、そこが他の世界レベルのの大会社と交渉をする。スラムの各店舗との個別交渉は、一切出来ないようになっている。こうしてスラムの各店舗は、経営に煩わされることなく作業に没頭出来るようになっており、雇用も賃金も守られている。

・スラムの中には学校も仕事場も住居も病院もあり、一つの生活圏となっていて、何一つ足りないものはない。

・以上のことから、『スラムに住むこと』は、全くネガティブなことではなく、むしろフツーのこと。かく言うトーマスも、スラムに現在も住んでいる。

・あと、どうでもいいけど血液型には世界にA、B、O以外に、『ボンベイ型(ムンバイ型)』なるものがあるらしい。ほんとどうでもいいけどびっくり。

 

この説明だけで、インド5弱の衝撃だった。スラムって、彼ら的には貧困の象徴じゃないのか!!!!!

ザックが『ないすとぅみーとぅ』とクマールに挨拶した時もインド3の衝撃を受けたし、

マッチが来印2分でクマールをのけぞらせるほどしゃべり倒してるのを見た時もインド4弱の衝撃を受けたし、

トミーが1日開けっぱなしにしたキャラメルポップコーンが湿気っているのをムンバイの湿度のせいにしていたことにもインド2強の衝撃を受けたが、

そのどの衝撃よりも、スラムの実情を知った衝撃は強烈だった。

***

『スラム』というと、一般的にはこういうイメージを抱いてしまうのではないだろうか。

・住民は全員危険なヤツであり、マフィアの構成員やヤクの売人が闊歩している。目は赤くギラついており、視線が交差した時点で捕縛され、拷問決定。

・一番弱そうなめがねのヤツでもマッチの倍以上の腕の幅があり、ペットは犬と猫と場合によってはヒョウやトラ。

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・弱肉強食の修羅の世界。生存率は1%。

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・スラムの中ではありとあらゆる犯罪が行われており、悪臭と悪の臭いが蔓延している。一度足を踏み入れたら、二度と出ては来られない。(なので僕とトミーも出てこられない。)

・売られるし掘られる。

 

・・・というようなイメージをスラムに対して抱いていたため、ある程度の覚悟はしていたのだけれど、トーマスのガイドが始まってからの3時間、この予想は全くのあさっての方向に展開していたことが分かった。

まず、悪臭も悪の臭いも一切しない。多少日本の常識から見れば散らかっているし衛生的に不安に見えなくもないが、そこにはあくまで普通の暮らしが展開されていた。写真がないのでイメージしづらいかもしれないけれど、『スラム』という名刺が醸し出す仄暗さや陰鬱な感じは微塵も感じられなかった。

出てくる子供は皆笑顔、そして、良い意味で僕たちにあまり興味がない。過去に訪れたインド北部では、ドラクエに出てくるマドハンドのように、後から後からインド人が湧いてきてあっという間に囲まれ、そしてバクシーシ(喜捨)要請や勧誘(ツーリストなど)を受けまくることが予想された。子供に囲まれたら、財布の入っているポケットや、リュックの口を押さえるというのは定石だ。

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ここダラヴィー・スラムでは、そんな必要は全くなかった。インド人は、ワラワラと出現しなかった。用事がある人たちが順次道を横切ったり顔を出したりしているだけで、作業をしている人たちは、こちらを一瞥するだけで自分の仕事に没頭していた。

僕たちの存在は認識していても、そこに何かをしてこようとするインド人は、3時間の間になんと一人もいなかったのである。

身の危険を感じる機会は、ついにこの4日間で一度もなかった。一番危険と思われたこのスラムですら、完全にゼロである。僕は、『スラム』という言葉の定義を、根本的に見直す必要に迫られていた。

***

僕はなんだか、とても申し訳ない気持ちになった。インドを誤解していたし、スラムを誤解していた。インドは確かにカオスの国だけれど、そこにはそこなりの秩序がちゃんとあり、それをほとんど全員がきちんと守っていた。(めっちゃ働いてる人が、明らかに健康なのに働いてない同僚をなぜ怒らないのか不明だが、それもカオスながらの秩序のよう。)

万事テキトーでどこか信用できない(失礼!)なインド人ではあっても、無差別に誰かを傷つけようとするネトウヨみたいなヤツはどこにもいなかった。被害に遭ったとしても、それはインド人が目の前の人を一生懸命助けようとして、あさってのことを教えてしまったりする習性に因るだけ。

僕が着てきたTシャツは、別にそういうつもりじゃなかったけれど、きちんと僕の気持ちを代弁してくれていた。

スラムは、安全で(インド基準で言えば)衛生的で、みんな勤勉で、とても素晴らしい場所だった。

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***

ただ一方では、こういう見方もできるんじゃないだろうかと思わなくもない。

本当の格差社会とは、格差が格差と認識されない社会、もしくはされたとしても、それが人が生まれて死ぬのと同じぐらい当たり前とされる社会のことだと僕は思っている。

インドという国はまさにそれ。何千年も前から続くカーストという古くさーい概念を引き継いで、それがいまだに社会の規則を形作っている。一人一人の人生の幅も規定している。それを乗り越えられるのは、99%の人ではなく、0.1%にも満たない突然変異種だけだ。

格差だ格差だ!と騒いでいる日本というのは、みんなが『格差というのは本来おかしい』と思っている社会だということ。格差の存在について言及されることは確かに増えているとは思うけれど、それでも格差について文句を言う人が多い日本は、世界一格差の少ない社会だと言える。

『それ』を認識できなくなったら、格差社会は完成してしまう。日本はまだまだその境地までは遠い。(収容所で、本当に死に近い人間は、う◯こや小便に顔をうずめようが気にしなくなるというが、それと同じかな。)

日本とインドのこの差というのは、言うなれば一面はインド人の大きさを示唆しているのであり、しかし一方ではインド社会の巨大な歪みがそう簡単には治らない暦年の産物であることの証左であるとも言える。

***

インド5弱の衝撃はまだ続く。

『スラムに住む』というのは、僕たちが思っているのと同様に、政府から見ても『快適ではない』と見えたらしく、政府御用達でスラムの住人がきちんとした家に住めるように、公営住宅をスラムの近くに作ったことがあった。

『ありがとうございます!コレで私たちもまともな生活が出来ます!』と涙を流してスラムの住人たちはその公営住宅に即座に移り住・・・・まなかったんだなこれが。

スラムというのは、家族や兄弟、近隣住人との距離がとても近い。推測だけれど、ちょっとした仕事の融通からカレーのシェアまで、日常の細々したことを助け合うのにちょうど良いコミュニティが形成されているのではないだろうか。

『スラムに住む自由を行使する』ということで、その公営住宅にはほとんど人が入らなかったらしい。支配される快適な生活(公営だから色々管理がめんどくさそう)よりも、支配されない自由とカオスと、ちょっとした貧困を彼らは選んだ。

世の中には、解決しない方が良い問題というのも、あるのだということがよく分かった。問題というのはその存在自体が何らかの弊害を生むので、それがないに越したことはない。新たに発生されるのは迷惑なので、ご新規さんはお断りだ。

けれど、既にある問題の場合は、無理に解決にもっていこうとすると、歪みが出る。特にこの国に暮らす12億人のうち、(主に金銭的、衛生的な)問題を抱えている10億人の人たちに、等しく問題の解決の効果を体感させるには、一気に物事を進めなければならない。

そして母数が10億人である以上、それはほとんど確実に不可能だ。貧困を解決しようとすれば、彼らに外の世界を認知させることが必要になり、それは結果として嫉妬や羨望、そこからの犯罪やテロに繋がっていく。

問題てのは、解決してナンボだと思っていた。そうではなかった。

***

そうそう、ヤツらは最悪だった。イギリス人のビートルズ4人組。トーマスが懇切丁寧に説明してあげてるのに、全く理解してない。

ある小さな工場のオーナーと従業員が別だという話をしても、

『なぜオーナーはここで働いてないんだ?』、『そこに座ってるだけのおっさんはオーナーじゃないのか?』、『この店を持ってるのにここで働いてないなんて、なんてクレイジーだ!』、『ここのオーナーはBMW持ってるのか?』

要するに、所有と経営の分離みたいな概念を知らないらしい。この時点で、社会に出た事がないことと、相当に学が浅いヤツらだということが分かった。

さらに、

『コイツらは一日どれだけもらってるんだ?』と、英語がかろうじて分からなそうな従業員を目の前にして、トーマスに聞く。

『あんた、一体いくら稼いでるんだ?』と、このスラムでかなりの力を持つボスザル的インド人に面と向かって聞く。

『家を買ったのか?1600万?はん、俺たちの国から見たら安いな・・・』と、ボスザルインド人に対しても相当な上から目線。数百人を従えているこのボスザルインド人は、かなりの風格だった。

英語があまり分からなかった僕は持ちろん、トミーも切れ気味だったし、妙齢の女性も呆れていた。英語が話せるヤツは賢い、と日本人は思いがちだけど、『英語を話す馬鹿』もいるのだということがよくわかった。人に聞いて良いことといけないことの区別は、誰が相手でもしっかりしなければいけない。

同じくインド5弱の衝撃を受けたのが、キレ気味だった僕たちと比較して、大人すぎるトーマスの対応。

『この仕事をしていて学んだ一番大事なことは、いつも笑顔でいようってことさ。』

つまりはかなり怒っているということだったのだけれど、トーマスはこのクソみたいなイギリス人4人組に対して、ずっとニコニコしながら何度も何度も同じ説明をしてあげていた。トーマス、あっぱれ。

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最大限度の衝撃を受けて、僕たちのスラムツアーは終わりを迎えることとなった。子供達は、出逢う子出逢う子が、最高の顔をしていた。

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よく分かった。この国は、どれだけ時が立とうとも、どれだけ経済が発展しようとも、日本のような総中流社会になることは絶対にない。いつの時代も、絶対的な金持ちと、絶対的な貧困層とが、絶対的に越えられない壁をほんの1枚隔てて、共存する。その壁は、とてつもなく薄いはずなのに、決してベルリンの壁のように壊されることはないだろう。

そんな国だけれど、一つ確信出来るのは、この国は決して止まらないだろうということ。12億人ほとんどが前を向いて、自分のことだけに専念してる。これって素直に、スゴいと思う。

***

さて、いよいよスラムツアーが終わった。そして、僕のインド弾丸エンペラーツアーもこれで終わり。

最後のスラムが衝撃的過ぎて半ば放心状態だったけれど、もう空港に向かわないといけない。

最後のエンペラーが帰ってしまうと、また英語とカレーの毎日に逆戻りのトミーが、気がつかなければ見過ごしてしまいそうなほどかすかな涙目になりながら、僕を見送ってくれる。

トミーがいなければ、こんなに発見と驚きに満ちた数日間をムンバイで過ごせはしなかっただろう。というか、トミーがムンバイに赴任しなければ、こんなツアー自体が存在しなかった。そしてトミーと出逢ったセミナーに、わざわざ数十万円払って2回目の受講をしなければ、トミーと同じエンペラーの会に属することもなかった。

ありがとう、トミー。ガイドをしてくれることに甘えて使い倒してしまったが、そのどれにも完璧に応えてくれた。

最後にハグをして、日本での再会を誓って別れた。トミー、ポップコーンの袋は閉めとけよ。

***

ムンバイ市公認のタクシーサービスのドライバーは、道にたむろするインド人たちを結構な勢いでかき分けながら、空港に向かって怒濤の勢いで僕を運んでくれた。半分ぐらいのインド人は、轢かれそうになってたけれど、これもまたインドでは普通の光景なのだ。

ドライバーは、僕に対してはめちゃ丁寧だったのに、外のインド人に対してはとても攻撃的な運転をしていた

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空港が見えてきた。何度見ても、世界のどの空港よりも立派だ。

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『格差』という、本来同じレベルにあるはずのものに差がついてしまったというニュアンスを含む言葉では表現出来ない、いかんともし難い『世界の違い』を、街中からほんの1時間のこの空港を見て感じた。

インドというのは、最初から最後まで、一言では表せない国だった。

***

最後に、全員で撮ったとてもエンペラーな写真で締めたい。

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インド、ありがとう!

トミー、ありがとう!

マッチ、しずかに!

ザック、浮いてるぞ!

 

インド編、おしまい。

***

世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

引かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!

我が人生に一片の悔いなし!!!

 

インド5弱の衝撃!8年ぶりに行ったインドの話 その11


8年ぶりにインドで逝ってきました。今回は随一の経済都市ムンバイ。

全く変わっていないインド、大きく変わったインドの両方が楽しめた旅でした。

インド5弱の衝撃をどうぞ。日本が抱える問題点の解決策を持ってる気がするのは気のせいだろうか。。。

***

※主な登場人物

トミー(Tommy):世界屈指の外資系コンサル会社に勤めるエリートな漢。ふとしたきっかけからムンバイに赴任することとなり、今回の旅のホストして活躍。なぜか僕に色々と相談してくる。語学が堪能。ランチームアドミラル所属。

マッチ:某ITベンチャーの若きエグゼクティブVP。カラオケで必ずマッチの曲を歌うところからマッチと呼ばれている。体型もマッチ棒っぽい。息を吸いながら話し続けることが出来る特技の持ち主。ハートが異様に強い。語学は堪能とは言い難いが、魂で話す。

ザック:公認会計士に教える公認会計士。フルマラソン3時間30分切り(サブ3.5)まであと8秒というとても惜しい漢。会計士仲間の先輩には『おしゃべりクソヤロー』言われるほど普段は饒舌で僕から見てもとても話が上手いのだが、今回の旅では貝になっていた。ランチームアドミラル所属。語学は堪能に見えていたのに、結構とんでもない実力だった。

エンペラーの会:僕が主催する勉強会。共に学ぶ同志。

三人に共通するのは、全員心から尊敬すべき漢たちであり、卓越したビジネスパーソンでもあるということである。

***

エリート戦士、トミーの憂鬱

トミーのポップコーン放置事件に心を乱されながらもトミーズハウスを出た僕たちは、つい先ほど予約が完了したばかりのスラムのツアーに出発した。

これから行く先は、スラムの内部。一体何が起こるか分からない。冗談抜きに、最悪の場合は帰ってこられないことも覚悟しなければならない。

昨日はエンペラーの会としての最後の晩餐だったが、今日のお昼ごはんが自分自身の最後の晩餐になるかもしれない。

僕はトミーに、あるお願いをした。

『トミー先生・・・美味しい・・・美味しい本格的なインドカレーが・・・食べたいです。。。』

トミーはため息をついた。

インド滞在9ヶ月目になるトミーにとっては、毎日毎日がインドカレー。朝も昼も夜もインドカレー。お腹が空いててもお腹が一杯でもインドカレー。エンペラーの会でもやっぱりインドカレー。

もうお前の出番はないよと一番言いたいのがインドカレーのようだった。僕たちを喜ばせるために、本当は中華が食べたいのに、無理矢理カレーに付き合ってくれていた。

エンペラーのほとんどが日本に帰国し、もうおのぼり日本人のインド熱に付き合うことはないと安心していたのだろうか。僕が本格的なインドカレーが食べたいという旨を伝えたところ、

・・・

・・・

『インドで食べてんだからどこだってある意味本格的だろうがこのド素人がゴルァ!!!!!』

という顔を微塵も見せずにとは言い切れない複雑な表情をしたまま、冷静に

『い、いいよ・・・』

と快諾してくれた。

***

ムンバイ中心部のフェニックスモールの『パンジャーブ』という高級インド料理店で最後の晩餐ランチをとることにした。

『パンジャーブ』とは、今回ベリーマッチにお世話になったクマールの出身地名でもあり、縁起の良さを感じさせる。

ウェイターの受け答えもインド人とは思えないほどしっかりしており丁寧で、インド料理を食べに来ているのに、自分がインドにいるということをつかの間忘れてしまう。

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最後の晩餐ランチは素晴らしく旨いカレーやタンドリーチキンが出てきて、僕は

『旨い!旨いよぉ!旨くね?トミー!な?な?』

と興奮気味に聞く。トミーは、

『うん、旨いね・・・確かに・・・旨い。。。

でも・・・

僕は・・・

もう

疲れたよ・・・

パトラッシュ・・・』

『ト、トミー!トミーーーー!!!!!』

やすらかな顔をした天使となって昇天しようとするトミーの肩を揺さぶって、僕は必死に盟友トミーをこの世に引きずり戻した。

かなりのレベルの旨さのインド料理を食べているのに昇天しようとしているトミーを見て、彼がどれぐらい疲弊しているのかが今回初めて分かった気がする。

***

繰り返し述べてきたことだけれど、この国ではカレーがまず何にも増して優先される。日本人にとっての梅干し以上の存在が、カレーだ。

外国人にとっては、いかに旨かろうが、そのうち見るのもイヤになるのに違いない。違いないけれど、カレー以外に食べるものが存在しないのもまた事実。

前の日の最後の晩餐、トミーはエンペラー各位の体調に気を配ったように見せて、実はこっそり僕たちの意向をコントロールしていたようだ。顧客に、『自分で決めた』と思わせつつも提案した流れに沿って行動を促せるのは、一流のコンサルティングスキルである。

***

加えて、どんなにお金を払ったとしても、拭えないストレスがこの国ではかかる。

例えばこの写真。インドにしては珍しく綺麗なトイレに見える。便座がちゃんとあるし、紙もある、完璧ではないか。がしかし。

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どんな喧噪が外界に広がっていたとしても、唯一自分が生まれたままの姿に戻ることが出来る癒しの空間。しかしよく見てみると、紙の位置がオカシイ。腰を180度捻らないと、紙が取れないようになっている。

ヒンドゥ教徒らしく、手前にあるシャワーで洗えという意味なのか、水力が弱いから紙を使うなというメッセージなのかは分からない。けれど、腰を180度捻らねば癒しの空間を完結させることができない。腰の周りの肉が多い僕などは、ラマーズ法を駆使しないと紙が取れない。

こういうところでも、日本では感じる必要のないストレスがかかる。

***

インド人は日本人から見ると、全員同じ顔に見える。僕が出逢うインド人インド人を、全部『トーマス』と名付けたのも、うなづいていただけるのではないだろうか。

ほぼ同じ顔の人が12億人もいる国、インドのマーケット。

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ところでトミーが勤めているのは、世界屈指のコンサルティングファームのムンバイ支社。

『人の顔を間違えたことはないの?』と聞いてみたら、やはり『ある』とのこと。

ある日、赴任早々に役員の個室に入って挨拶しようとしたら、見た目からしてふくよかで地位的に偉そうなインド人が一人と、それに対してキレキレなトークで報告を繰り広げる若手コンサルタントのインド人がいた。

帰りのタクシーで若手コンサルタントと一緒になり、軽く自己紹介をしたあとに、社内的にはmid-ageなトミーは、若手コンサルタントに向かって、『こんな世知辛い会社に入っちまってお前もイロイロ大変だな、お互いがんばろうぜ』的なことを話していたらしい。

ふと若手コンサルタントの持っていた飛行機のチケットを見ると、ビジネスクラスの印字があった。ん?ビジネスクラス?この若造が?

おかしい、おかしい、おかしい!と思って念のため確認すると、部屋にいたふくよかで偉そうなインド人はなんと若手コンサルタントの部下で、若手に見えたその人は見た目が若いだけの40代の役員だった。キレキレに報告しているように見えたのは、部下にキレキレな指示を飛ばしていた情景だった。

トミーは、会話が敬語も丁寧語もない英語であったことに感謝したという。インド人は、見た目が若い人は本当に若い。

人違いの可能性を常に頭に入れておかないといけないというのも、目に見えないダメージを精神に与えることと思う。

***

宿屋に泊まってもHP(体力)もMP(魔法力)も完全には回復しないとしたら、勇者一行は、果たして魔王を倒すことができるだろうか。

歩くたびにHPの減っていく毒沼がフィールドに広がっているとしたら、万全な状態での戦いはいつまでたっても出来ないのではないだろうか。

トミーが戦っているのは、勇者の生まれ故郷のアリアハンではなく、魔王の部下のモンスターが蔓延する魔界、インドである。

インドの頭脳と日本の頭脳を比べると、前者のトップ層は後者のトップ層よりも強力と言われている。まさにその中で戦いを強いられるトミーは、限界すれすれの状況にいるようであった。

トミーは僕にこういった。

『パトラッシュ・・・僕は・・・蔦屋書店みたいな静かなところで、休日に独りで本が読みたいんだ。。。ただそれだけでいいんだ。。。でも、インド人はどこにでもいて、いないと思っても湧いてきて、独りになれなくて、そして何よりインドはどこもうるさいんだ。。。』

トミーには、僕がパトラッシュに見えたようだ。僕は、最後の晩餐ランチのインド料理を頬張りながら、トミーをそっとしておくことにした。

***

蛇足だが、このフェニックスモールは、ムンバイ最大最新のモールのようで、すごく綺麗だった。トイレも、紙の位置を別とすれば、かなり良い。トイレアンバサダー(大使)としての権限を持つ僕も、星4つをあげたいぐらいだった。

しかし日本とインドの違い。それは、こういうおじさんがトイレにいたいこと。

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アメリカでトイレ掃除のバイトのにーちゃんがいるのとは全く意味が違う。それは、カーストによって定められた、一生にこの仕事しかしないということが決定している、人生そのものの一ページだ。

ドービーガートの洗濯場には、一生のうち洗濯の仕事しかしない人がいる。同様に、このトイレのおじさんは、おそらくカーストでこの仕事が一生の仕事と決められている。

選べるのに不幸感漂う日本人と、選べないのに幸せ感漂うインド人。

井の中の蛙は幸せなのか不幸なのか。

インド上層部に自殺が多く、貧困層のそれはむしろ割合が低いという事実。

色々と考えさせられる。

当初、僕はカースト制度を毛嫌いしていた。人間が生まれたその瞬間から、色々なものを制限されてるなんてあり得ない。引かれた線を飛び越える権利ぐらい、誰にだってあるはずだ!

だけれど、この国に来て2回目、数十日目かにして、ある別の側面も見えてきた気がしている。

インドは、日本のずっと先を行っているのではないか。

二つの点で、僕はそう感じるようになってた。

一つは、インド人のメンタリティ。

生まれたときから、自分ではない誰かに決められた人生の幅がある。それを越えることは、偉大なる何かが決して許さない。たとえ不自由な生活を強いられようが、衛生的にも物質的にも恵まれない人生だろうか、それこそが人生と受け入れるしかない。

そこには、こちらが思っているような選択肢のなさに対する悲壮感はあまりなく、他の世界に暮らす人たちに対する敵愾心もない。ただ、今ある境遇をを受け入れる。

僕たち日本人には、生まれつき決められた人生の幅なんて、ほとんどない。(一部の、親や周りの人間に全く恵まれない子供たちは除く。世界のどこにでも、理想に反して目を背けたくなる現実があるのは、この歳でようやく認められるようになった。)

そして、知れば知るほど、隣の芝生は青く見え、青い鳥は遠くにいるように感じられる。その結果として、選べるがゆえに、自由がゆえに、不幸となっている人が、日本には沢山いるような気がする。インド上層部にも。

『足るを知る』、『ありのままで』、『あるがままで』、『青い鳥は近くにいる』など、理屈としては知っていてもなかなか出来ないこれらの格言を、インド人は民族全体として身につけているように見える。

もう一つは、社会のシステム。

日本では、レストランのウェイターさんが、接客もトイレの掃除もやる。時間帯によっては厨房に入って料理もする。人件費を極限まで減らし、お店の経営効率を上げることが優先される。

インドでそれはない。ウェイターさんは接客をし、トイレ掃除のおじさんはトイレ掃除をし、コックさんは料理をする。それらの仕事を掛け持ちする人はいない。トイレ掃除のおじさんが手一杯だったら、手の空いたウェイターさんやコックさんが手伝うのではなく、新たにトイレのおじさんその2を雇う。それによって増える人権費よりも、カーストが重視される。

結果どういうことが起きるか?

そう、雇用が生まれるのである。

日本だと、下手をすると深夜の時間帯はウェイターさんとトイレを掃除する人とコックさんを1人の人間が兼ねているという事象も発生する。雇われるのは1人。

かたや、インドでは3人が雇われる。トイレ掃除の人が足りなくなれば4人目が雇われる。

1人1人の収入は限られていても、いわゆる『ワークシェアリング』が、12億人の総意として、社会に認知されている。

明らかに要らないだろうと思われる場所にも人を配置することは、一見して非効率そのものに見える。トイレに入るたびに、『タオルぐらい自分で取れるし蛇口も自分で捻れるわ!』と思ったことは否定しない。

でもそれは、(低賃金ながらも)雇用を生んでいるという側面から見ると、むしろ非常に効率的なのである。

効率化を優先する世界の戦いの中で勝者となった人間のエゴや独占により、その他の人間に仕事が行き渡りにくい日本と、みんながみんな、それぞれの仕事の存在を認めて、脱落者が出ないようにみんなでシェアしているインド。果たして、進んでいるのはどちらの社会だろうかと思う。

***

いよいよ待ちに待ったスラムツアー。ダラウィスラムという、ムンバイ最大のスラムの内部に、ついに潜入する。

スラムツアーのガイドさんと待ち合わせをする前に入ったコーヒーショップでは、トミーの頼んだコーヒーと、僕の頼んだカフェオレは、なぜか運ばれてきたそばから倍ほども量が違った。

最初から3割ぐらいしか入っていないカフェオレを飲んだのは初めてだったが、この程度の誤差は、インドではナンオブマイビジネスだ。差別じゃないと願う。

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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

引かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!

我が人生に一片の悔いなし!!!

 

インド5弱の衝撃!8年ぶりに行ったインドの話 その10


8年ぶりにインドで逝ってきました。今回は随一の経済都市ムンバイ。

全く変わっていないインド、大きく変わったインドの両方が楽しめた旅でした。

インド5弱の衝撃をどうぞ。日本が抱える問題点の解決策を持ってる気がするのは気のせいだろうか。。。

***

※主な登場人物

トミー(Tommy):世界屈指の外資系コンサル会社に勤めるエリートな漢。ふとしたきっかけからムンバイに赴任することとなり、今回の旅のホストして活躍。なぜか僕に色々と相談してくる。語学が堪能。ランチームアドミラル所属。

マッチ:某ITベンチャーの若きエグゼクティブVP。カラオケで必ずマッチの曲を歌うところからマッチと呼ばれている。体型もマッチ棒っぽい。息を吸いながら話し続けることが出来る特技の持ち主。ハートが異様に強い。語学は堪能とは言い難いが、魂で話す。

ザック:公認会計士に教える公認会計士。フルマラソン3時間30分切り(サブ3.5)まであと8秒というとても惜しい漢。会計士仲間の先輩には『おしゃべりクソヤロー』言われるほど普段は饒舌で僕から見てもとても話が上手いのだが、今回の旅では貝になっていた。ランチームアドミラル所属。語学は堪能に見えていたのに、結構とんでもない実力だった。

エンペラーの会:僕が主催する勉強会。共に学ぶ同志。

三人に共通するのは、全員心から尊敬すべき漢たちであり、卓越したビジネスパーソンでもあるということである。

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エンペラー、解散

ザックが去った後に入ったインド随一の高級さと伝統を誇るタージマハルホテルで、僕たちはエンペラーな空間を楽しんでいた。

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トミーが入店早々にウェイターのトーマスをギタギタにしてしまったため、少し複雑になった日印関係から生ずる報復を懸念していたが、頼んだビールやカフェオレはわりとスッと出てきたし、サーブするときのトーマスはにこやかだったので、僕は安心していた。

そんな安心が慢心に変わったのだろうか。

僕は、鞄から伝家の宝刀、『クレターズのポップコーン、キャラメル味』を出した。

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今回、トミーにはインド滞在中のロジスティクスからファイナンスからガイダンスから、全てを委ねることになっていたので、何かしらお土産を持っていこうと思っていた。

事前に米の打診はあったので(インディカ米はもうイヤらしい)、それはザックとマッチに持っていったもらった。僕は、自分の食癖もあるのだけれど、盲点となりがちなお菓子をもっていくことにした。

海外のお菓子というのは、大体が異様に甘いか異様にスパイシーか異様にデカい。味自体も大味で、身体がどんどん悪くなっていくかのようだ。『たべっこどうぶつ』や『キティランド』のような、絶妙な甘さと塩加減のお菓子など、まず口にすることは出来ない。

なので、日本を代表するお菓子の一つである『ヨックモック(のセットの食べかけ。途中で食べたのは僕とザック)』、およびこのクレターズのポップコーンを持っていくことにした。

後で調べたらバリバリの外資系のポップコーンだったのだけれど、一度食べ始めると止まらないキャラメルの甘さとサクサク感が素晴らしいので、ぜひトミーにつかの間の天国を味わってもらおうと思ってもってきた。本当はチェダーチーズとキャラメルとのミックス(左側)を買って至高のフュージョンを楽しんでもらいたかったのだけれど、売り切れだったためキャラメルのみの袋をしこたまかって、トミーとクマール用とした。

 

さらにこっそりとキャラメルポップコーンを盛った僕は、畢竟モグモグと食べ始めた。カフェオレで苦々しさの残る口に、甘いキャラメル味が染みる。そして甘いキャラメルを堪能した後は、カフェオレで口の中をさっぱりさせたくなる。そうすると今度は甘いものがほしくなり・・・

という終わりのない至福のループに差し掛かろうとした瞬間、

『ミスター?』

と声がした。

トーマスだった。

今まで見せたタージマハルホテルにふさわしい重厚なウェイターの表情から一変、

『こんなところで食べて言い訳ないだろ、こんの、ド素人の貧民が!・・・』

と、鬼の形相で僕のポップコーンを嗜める。しまえと言われて皿に出したポップコーンを泣きながら袋に戻す。

勿論、僕だって日本でこんなことをしてるわけじゃない。そしてインドだからとナメてやらかしてるわけでもない。

でも、トイレの水力はすこぶる弱く紙がないのが当たり前、人に道を聞いたら間違ってるのが当たり前、時間を守らないのも当たり前、日本で当たり前のことが何一つ叶わないのが当たり前のこの万事ユルユルな国で、ポップコーンを、しかもキャラメル味のポップコーンを少しぐらいなら食べても怒られないんじゃないかと思ってしまった。

が、さすがはムンバイ随一の高級ホテルのバーのウェイターのトーマスである。

僕が不審な動きをしているのを察知して、嘲笑しながらきっちり押さえるところは押さえてきた。しかしそのしてやったりな表情を見ると、先ほどトミーにこてんぱんにやられたことと今回の検閲が、無関係なものとは僕にはとても思えない。

僕は、トミーが振りかざしたロジックの間接的な被害者になった。

***

僕はしばしうなだれておとなしくしていたが、一度食べ始めたクレターズのキャラメルポップコーンの魔力は強烈だった。禁断症状が起きたのである。

カフェオレを飲んでいると、どうしてもキャラメルポップコーンを口にしたくなる。僕はテレビで勉強したCIAの目線の配り方、気配の消し方を完璧に模倣し、ごく自然な形でトーマスの居場所を的確に見極めながら、ノールックで鞄の中のキャラメルポップコーンに手を伸ばし、何か考え事をしているかのようなていで両手をマスク状にして口にかぶせた。

うむ、これなら全く怪しくなく、ごくごく自然な形でキャラメルポップコーンが食べられる。もう僕は、一般常識とか信義とか、日本では大事にしているはずの価値観を、この国では大切なものと思えなくなっていた。

マッチもトミーも、トーマスの検閲に怯えながらそこまでしてキャラメルポップコーンに手を伸ばす僕を最初馬鹿にしていたが、だんだん羨ましくなってきたようで、同じような格好でそそくさとほおばり始める。

社内で神と崇められている(と自称している)というベンチャーのVP、マッチ。

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超絶エリートな外資系コンサルに勤めているトミー。

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手のひらにごく自然に隠されたキャラメルポップコーンを大事そうにほおばる二人。

世間一般的には成功者と呼んでも良いと思われる、心から尊敬しているこの二人を見て、僕は思った。

 

 

 

 

 

こいつら、バカだ。。。

 

人のフリ見て我がフリ直せとはよく言ったもので、僕はこのとき初めて自分がなぜトーマスの逆鱗に触れたのか、分かった気がした。

※タージマハルホテルさん、調子に乗りすぎました、ごめんなさい。もしこれで日印関係に問題が出るようなら、エンペラーの会からはトミーを派遣して問題解決に当たらせます。

 

***

ウェイタートーマスとの激闘を経て無事キャラメルポップコーンを口に運ぶことに成功した僕たちであるが、ふと自分たちの非常識さに気づいた後は、おとなしくポップコーンをしまい、真面目一辺倒なトークになっていた。

自分たちの未来について、日本の未来について、自分たちが大切にしている価値観について。

エンペラーな会話を、エンペラーな空間で交わし続ける。またこういうことをやろう、次はあの国でやろう、などと、荒唐無稽な目標が次々と掲げられていく。出来るとか出来ないの前に、やりたいことをやる方向で話し合える仲間との時間。この上なく幸せな時間だ。

夜はふけていき、名残惜しいながらもタージマハルホテルを後にした僕たちは、ホテルGODWINに戻り、最後の語らいをすることにした。

刻一刻と、マッチが帰る時間が近づいてくる。

午前1時を過ぎて、ついにマッチが旅立つこととなった。昨日の昼に到着して、実働2日で帰る激務な漢マッチ。到着後2分でクマールの心を鷲掴みし、少し迷惑がられるほど話かけていたマッチ。人間と人間は言語は違えど、魂で会話出来るということを証明したマッチ。漢に必要なのは、停滞や後退ではなく、全身で前進することだとザックに背中で示したマッチ。

そのマッチが帰ってしまう。

最後までほとんど息継ぎをしないまましゃべり続けて生物の限界を越えた姿を見せたマッチは、来たときとそのまま同じ騒がしさで去っていった。いるときは静かにしてほしいと思っても、いなくなると空気や水と同じように渇望してしまうのが、マッチという漢だった。

トミーと二人になった僕は、一人一人と帰国するにつれ寂しそうな顔を見せるトミーを一瞥しながら、眠りについた。

***

最終日。この日は、念願のトミーの家を見学したあとに、昨日チラ見したスラムをもう少し詳しく知るツアーに参加することとなった。

トミーの家は、いわゆるムンバイ的には比較的高級な住宅地で、セキュリティを考慮した作りになっていた。確かに守衛がいたりエレベーターがちゃんとしたりはしていたものの、やはり日本に比べるとどこか殺風景で、ブツが揃っているとはいってもとても住みにくそうな家だった。

とても細かいことを言うと、トイレは水洗だし紙もあるのだけれど、水力は弱く、紙のポジションは身体を180度捻ったところにある。ガスボンベは、台所に剥き出しに置いてある。高級住宅地と言っても、水を普通に飲むことはリスク管理上あり得ない。

こういう細かいところが違うだけで、毎日毎日仕事に追われるトミーの身体と精神は蝕まれていくのだと思う。ラストワンマイルの心配りが日本にはあり、インドにはない。お金はあっても決して彼らインド人が提供出来ないものを、日本では一定レベル以上の場所であれば享受できる。

それがない状況が一年続き、しかもそこに日本以上のパフォーマンスを求められる仕事が乗っかってくる。どれだけツラく厳しいことなのかは、想像するより他ない。

***

許可を得て、トミーの部屋の写真をいくつか撮らせてもらった。

どうやら、いつ何か素敵なことが起きても大丈夫なように、しっかりとしたダブルベッドを購入していたようだ。

起きるかどうか分からない事象に関しては、起きる起きないではなく起きることを前提としてリスク管理をするという、保険家も真っ青の周到さで、自身の春を待っているようだ。

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***

トミーはスラム街ツアーへと向かうためのタクシーを手配してくれていて、電話でドライバーに何か話していた。

一応は公的なリムジンサービスの会社のドライバーのはずなのに、相手はほとんどトミーの言っていることを理解していないようで、トミーは何度も何度も同じことを言って、ようやく自分の家の場所を伝えることができたようだった。

効率の悪い電話を終え、ため息をつきながらこちらに来たトミーは、机の上に転がっているブツを見て、もう一度ため息をついた。

僕が前日に日本からのお土産としてプレゼントしたクレターのキャラメルポップコーンの袋である。(前の日にタージマハルホテルで食べたのは別の袋)開いた状態の袋を片手に、食ってみろとトミーは僕に差し出してくる。

本来ドロドロなはずのキャラメルがポップコーンにコーティングされているのに、驚くほどサクサクに仕上がっているのが僕の持ってきたクレターポップコーンの特徴だ。なのに、驚くほどのサクサク感は完璧に失われており、驚くほど湿気ってしまっていた。

トミーは、もう一度ため息をつきながら言う。言葉のニュアンスは若干違えど、かの空条承太郎が吐くやれやれ感だった。

『やれやれだぜ。見ただろ?公的なタクシー会社だって、俺の完璧な英語すら理解できない。何度も同じことを確認しなければ、インド人はとんでもない方向に物事を進めてしまう。カレーに食傷気味になってもカレーが続き、水や生ものには日本じゃ必要ないリスク管理をしながら接し、日本語のシャワー触れただけで恍惚としてしまう俺の状況、分かるかな?四季のある日本と違って、こちらは二季しかないんだ。雨が降らない季節と、雨が降る季節。季節なんてもんじゃない。ただ暑い中で少しの変化があるだけだ。ほら、見てみなよ。ムンバイは湿気がスゴくてさ。昨日開けたばかりのポップコーンだって、もうこのザマさ・・・』

確かに、日本からの贈り物であるはずのポップコーンですら、こんな短期間に湿気ってしまう過酷な環境にいるトミー。

僕はトミーが置かれた状況のあまりの過酷さにしばし呆然として、本来ならば彼に気づきを与えるべきこのたった一言が、どうしても言えなかった。

 

『トミー・・・

 

 

ポップコーンに限らず、

 

 

一日開けたままにしたら、

 

 

何でも湿気るんだよ。

 

 

ダメだよ袋閉じとかないと!!!』

 

トミーは当たり前のことすら判断出来ないぐらい、相当弱っているようだった。この国に到着した3日前に、『徒歩5分のところにカフェがある』と言ったのに『オートリキシャで1時間のカフェ』に連れていかれた時点で、トミーの変質に気づいてあげるべきだった。

過酷な環境下では、人は少しずつ少しずつ、狂っていく。

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僕とトミーは、ようやっと合流したタクシーに乗って、スラム街の中へと突入するツアーに出発した。

***

世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

引かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!

我が人生に一片の悔いなし!!!

インド5弱の衝撃!8年ぶりに行ったインドの話 その9


8年ぶりにインドで逝ってきました。今回は随一の経済都市ムンバイ。

全く変わっていないインド、大きく変わったインドの両方が楽しめた旅でした。

インド5弱の衝撃をどうぞ。日本が抱える問題点の解決策を持ってる気がするのは気のせいだろうか。。。

***

※主な登場人物

トミー(Tommy):世界屈指の外資系コンサル会社に勤めるエリートな漢。ふとしたきっかけからムンバイに赴任することとなり、今回の旅のホストして活躍。なぜか僕に色々と相談してくる。語学が堪能。ランチームアドミラル所属。

マッチ:某ITベンチャーの若きエグゼクティブVP。カラオケで必ずマッチの曲を歌うところからマッチと呼ばれている。体型もマッチ棒っぽい。息を吸いながら話し続けることが出来る特技の持ち主。ハートが異様に強い。語学は堪能とは言い難いが、魂で話す。

ザック:公認会計士に教える公認会計士。フルマラソン3時間30分切り(サブ3.5)まであと8秒というとても惜しい漢。会計士仲間の先輩には『おしゃべりクソヤロー』言われるほど普段は饒舌で僕から見てもとても話が上手いのだが、今回の旅では貝になっていた。ランチームアドミラル所属。語学は堪能に見えていたのに、結構とんでもない実力だった。

エンペラーの会:僕が主催する勉強会。共に学ぶ同志。

三人に共通するのは、全員心から尊敬すべき漢たちであり、卓越したビジネスパーソンでもあるということである。

***

神、シェフクマールにインド4強の衝撃を感じる

ホテルGODWINに戻ると、クマールがデカい鍋を二つ持って現れた。インド人なのに時間をきっちり守ろうと努力する漢。(守れているわけではない。)スーパーマリオを黒くして、長く伸ばした感じ。

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クマールが持ってきてくれたカレーは、思ってたのの数倍本格的だった。以前トミーがクマールに作ってもらったカレーを食べている写真をアップしていたが、そのしばらく後の投稿でインド式本場のOPPにハマってしまい、毎日トイレと共に暮らしているとの逸話があったのをほんの少し思い出して、瞬間的に逡巡した。(両イベントの因果関係は証明されていない。ただの印象論。)

なにせここは、生野菜や果物、水がNGな国、インド。クマールの好意に、100%応えてあげられない狭量な自分がイヤになる。

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・・と反射的に思ってしまったのは正直な気持ちなのだけれど、よく考えたらクマールのカレーに限らず、どのレストランのカレーもインド製である以上は同じリスクを抱えているということを思い出し、そこからはクマールのカレーに正面から向き合うことにした。

鶏肉はすんなりほぐれるほど、柔らかく煮込まれている。どうやら朝から仕込みをしてくれていたようだ。平然とした顔のクマールの、底深い好意に敬意を感じずにはいられない。

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一口食べてみる。

う・・・

う・・・

うんまい!!!!

これを境に、全員でむさぼるようにクマールのカレーを食べた。なぜか落下するトミーの頭を支えているようにしか見えない写真しか残っていないのだが、これは突如乱入してきたノルウェー人のトーマス(♀、クマールの別の顧客)に『さ、さ、おたべ!』とカレーを薦めたことによる。

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クマールが神にしか見えないほど、このカレーは旨かった。確かに、プロっぽさを感じる料理は他にもあったし、有名なレストランの味つけは、このカレーを上回っているものもあった。

でもこのクマールのカレーには、他のカレーにない『友情』、『ホスピタリティ』というスパイスが含まれていた。

本当に旨かった。ので、あっという間におかわりをして、それも平らげてしまったので一気にお腹一杯になってしまった。

ふと横を見ると、『あの漢』がしゃかしゃか動いていた。ザックだ。

ザックはものすごいスピードでひと皿目を貪ったあと、

『旨い!旨いよぉ〜!』

と、普段のカン高い声をさらにカン高くして、満面の笑みを浮かべながらさらに2皿目、3皿目、トドメの4皿目と平らげていった。

ザックが感情を前面に押し出して言葉を発したのも、満面の笑みを浮かべたのも、これほどせわしない動きを見せたのも、この旅初だったように思う。そして、後から振り返って、これが最初で最後の躍動だった。

初日に読んでいた『影響力の武器』はほぼ不発弾となり、ないすとぅみーとぅから始まったザックの影響力は、たった1回だけ発動しておしまい。

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クマールの作ったカレーを食べたのは5人だったが、そのうちの半分ぐらいをザック一人が食べていた。

***

 

今回、クマールにやってもらったことは多岐に渡る。

エレファンタ島のツアーに同行してくれ、道中のコストを全てインド人価格にしてくれ(インド人と外国人の入場料の差なんと25倍。)、インドのエコシステムを目の前で見せてくれ、ドライバーのトーマスを手配してくれ、ないすとぅみーとぅなザックに英語を教えてくれ、そもそもカオスなインドで安心感を与えてくれ、おまけに今回のカレーも作ってくれたクマール。

僕は勿論、エンペラーの面々は当然のようにある程度のガイドフィーをクマールに払うつもりでいたし、クマールもそのつもりで色々やってくれているのだと思っていた。多少トミーとのお友達価格でディスカウントはしてくれてるのだろうけど、そもそも彼の本業はツアーガイドだ。本業に対して適正な価格を支払うのは、プロとして当然のことだ。

・・と思っていたが、それは大きな勘違いだったことが後に分かる。

トミーによると、『かかった実費以外はクマールが受け取ってくれないので、どっかで晩飯オゴってあげようと思う。』とのこと。

な、なんだと!!!

クマール、な、なんていいヤツなんだ・・・。カレーだけでも相当なフィーを払いたいぐらいだったのに。

このクマールのあまりのホスピタリティに、僕たちはインド4強の衝撃を感じた。後日、現地の費用を全て立て替えていてくれたトミーに振込を行う際、全エンペラーが四捨五入してかなり多めに振込をしたことは言うまでもない。トミーからクマールへ、僕たちの分もおごってほしかった。

***

お腹一杯になったエンペラーたちは、眠気に勝てない僕を残して、みんなで買い物にいった。この日は22時頃にザックが、翌早朝4時にマッチが帰国をする。エンペラーが集う最終日となっており、楽しいカレーランチの後に、一抹の寂しさが漂う。

荷物は僕の部屋に集められた。皆は買い物だ。

買い物から帰ってきたエンペラー達も、カレーに膨れた腹に加えて、ドービーガートやスラム見学でだいぶお疲れだったようで、全員いつの間にか死亡。最後の晩餐に向けて、各自胃腸を整えながらエンペラーズナップをとった。

マッチは、さすがのハートと適応能力で、インド人よろしく、床に没した。日印問わず影響力を発揮しまくっているマッチも、さすがに疲れたようだ。

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最後の晩餐はエンペラーだけでしようということで、ここでクマールと中途半端に別れてしまった。旅にはよくあることだが、また逢えると思って別れると、後から振り返ってそれが最後の瞬間になってしまったりする。今回も、このとき

『カレー最高に旨かったぜ!また明日!』

と言って別れたクマールに、結局次の日に逢うことはなかった。一期一会という言葉は、海外でこそその重みを感じることが少なくない。一つ一つの出逢いを、大切にしていきたい。

***

目覚めると、まだクマールのカレーはたっぷりと腹に残っていたものの、それはそれとして最後の晩餐に向かうこととなった。

今回、エンペラーの会でムンバイツアーに参戦したのは、現地赴任のトミーを除くと3人。赤坂、恵比寿、渋谷などのエンペラーの会を経て、なぜかムンバイでやろうと思いつきで言い始めてから数ヶ月。

距離は長く時間はタイトでお金はそれなりにかかったけれど、本当に来て良かった、トミー本当にありがとうと、口々に今回の弾丸ツアーの感想を各エンペラーが口にする。

僕は今回が2度目のインド。北部の主要都市とは全く違う、ある意味インドに対して抱いていた偏見や印象が見事に覆された旅であり、そこに今回の価値があった。

マッチは、自分の会社においては組織全体を統べる存在であり、神と崇められている。(本人談)エンペラーの中ではよく噛みよくスベる存在な副会長だったのだが、そのグローバルなハートは、ここインドでも十二分に通用することが証明できたようだ。

トミーは久しぶりとなる日本語のシャワーに恍惚とした表情を浮かべる場面がたびたびあり、彼ほどの強靭な精神力と明晰な頭脳を以てしても、日々削られる異国の地においては同志の存在というのはそれなりの安心感を与えるようであった。付き合い始めて1年強、トミーがようやく弱音を吐くようになり、人間界に降りてきた。

ザックは・・・

・・・

・・・

・・・

日本に帰れることがとても嬉しそうだった。

そしてその嬉しさを必死に隠そうとしているようだった。

隠してるのに嬉しそうな感じがダダ漏れしていた。

ザック、分かりやすい。。。

レストランは中華メインで、ロブスターのチリ風味など、とても美味しかった。美味しかったが、やはり誰かが誰かのために直接作ってくれた料理には、全く敵わない。クマールのカレーは、かなりの人気店と思えるここの中華を、大きく上回る満足と感動を与えてくれた。

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***

20時をまわり、そろそろザックとお別れの時間だ。荷物を抱え、来たときと同じおのぼりさんルックのザックが、タクシーに乗り込む。ドライバーのトーマスへの指示も、トミーが逐一手伝ってあげる。

ザックは無事空港に着けるんだろうか、着けたとして、お金を払えるんだろうか、荷物を運べるんだろうか、チケットを発券出来るんだろうか、税関を通れるんだろうか、飛行機に乗れるんだろうか、チキンかビーフかと聞かれて、『イェス!!!』と答えてしまった行きの飛行機のようにならないだろうか。

一抹どころか百抹の心配をエンペラー各位に感じさせつつ、ザックの乗ったタクシーは視界から消えていった。またすぐに逢えるとは分かっていても、寂しくなる。エンペラー’s Sorrowだ。

***

マッチも、この翌早朝4時にはインドを去ることになる。となると、深夜1時頃まではエンペラーの会の続きが出来る。

やはり最後はエンペラーらしく、怪しげにライトアップされてエロさの増したタージマハルホテルのバーに向かった。

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バーには、これ見よがしなシャレオツ葉巻が売っていたので、それをトミーは買った。んだけど、なんと店内では吸えず、店員のトーマスに外で吸えと言われる。日本なら百歩譲って外で吸うとしても、これほどの高級ホテルであれば、吸う場所が確保されているのだけれど、今回はただ何もない庭に行けという。

こういった場合、日本人の標準対応は『泣き寝入り』。

インド人の適当さ、行き届かなさに対する怒りと、自分がそれを確認しなかった、というか常識的にそこまで考えが及ばなかった(店内で吸ってとばかりに葉巻が展示されている)不甲斐なさに対する憤怒が交錯し、しかし足りない語学力のせいで泣き寝入りするのが普通だ。

が、さすがはトミー。

『俺は吸えると思ったから買った。なのに店内で吸えないのなら、先に言うべきだ。外でしか吸えないのなら、これは要らない。金を返せ。』

と、自分の1.5倍ほどもある強面のトーマスを相手に、強烈な4段論法をぶちかまして完全に論破していた。

トーマスは、しぶしぶとカットが入ってもう売れなくなった葉巻を取り下げていった。

日々、外資系コンサル会社で丁々発止のやり取りをしているであろうトミーの、グローバルビジネスパーソンとしての凄みを見せつけられた瞬間だった。

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ラストエンペラーな夜は波乱の幕開けとなったが、ここでトミーにやり込められたタージマハルなトーマスが、よもやの反撃を、よもや僕にしてくることになるとは、このとき予想だにしていなかった。

トミーにやりこめられたときのトーマスの瞳に潜む仄暗い炎を、僕は見過ごしていたのかもしれない。

 

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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

引かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!

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