当日は朝9時40分にスタートなんだけど、起床は5時半。早杉。
これには理由があって、文字にするとやや分かりづらいが、宿の場所とレースの設定もあって、本土広島と宮島を何度か往復しなければならないからだ。
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レース前の準備その他諸々

俺たちの宿は宮島側で、当日受付が広島側なので朝6時15分の連絡船で広島に渡る
広島側で受付をして、ナンバーを腕に書き込んでもらったりして今度は7時15分の船で宮島側に戻る。
宿に戻り、またまた立派な朝飯を食べて、しばし時間を潰して、宮島側からのスイムスタートに備える。なんと厳島神社の敷地内から出走するという、特別扱いぶり。この大会に地元の事務局の方がどれだけ思い入れを持って運営されているのかがよく分かる。
途中、元帥閣下、兄さん、今回初対面のつっしーさんと話をしていたら、俺が何気なく言い放った冗談に乗る形で、いつの間にか御年60ほどのお姉様が俺たちの会話に混じっていた。うねりがある海では、波に乗って泳ぐことも大事なスキルだ。このお姉様は、会話の波にもいつの間にか乗っていた。
俺、兄さん、つっしーさんと、話しやすい対象がいくつかあるにも関わらず、人見知りで声が低過ぎて聞こえづらい元帥に、このお姉様の会話の矛先は集中していた。
連絡船の中でもわざわざつっしーさんをどかして元帥の隣に座る。
仲良し。
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後で聞いたところによると、元帥閣下は20以上歳の離れたお姉様と、30以上歳の離れた幼児にとてもモテるらしい。それ以外は苦手らしい。
確かに俺も初対面のとき、元帥閣下は全然こちらを見てくれなかった。こちらを見ていたのは、無為に剥き出しにされた極太の黒い上腕二頭筋だけだった。」
で、うっかり聞き逃しそうになったが、やたら宮島のレースがあーだこーだと論評してるので、経験数を聞いたら、なんと
『100戦はゆうにいっている』
とのこと。その瞬間、俺たち4人は凍り付いた。小姉さん、大姉さんを超える、超姉さんだ。
またこのパターンだ。普通に見える人、オーラのない人、何気ない人が一番ヤバい。強そう、速そう、に見えている時点でまだまだ俺は五流だ。
娘さんもアイアンマンだという超姉さんの歴史を聞いたからか、いつもは獣のようにご飯を平らげる元帥閣下は朝食に箸が全く伸びていなかった。
色は黒なのに、ブルーになっているようだった。
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9時前。間もなくスタート。スタート地点に行くために、なんとフリーパスで世界遺産である厳島神社を通過。平清盛、ありがとう。
しかし、なぜか通過には『ウェットスーツを完璧に着用していること』というひと札が入っていて、これがめっぽう暑い。どっからどう見ても大会の参加者なのに、ウェットスーツをスタート30分以上前に着なければならない。
汗がダラダラ、びちゃびちゃの状態で厳島神社を足早に歩く。
途中、安全祈願のお祓いを受けることが出来た。こういうところがニクい。ウェットスーツ完全着用で倒れそうになりながらお祓いをされる。(海の温度が低くても大丈夫なように設計されているウェットスーツは、陸上で着るとただのサウナスーツになる。この日は30度手前ぐらい。)
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ぐっと気持ちが引き締まったところで、試泳を開始。厳島神社の鳥居まで行ってもいいよということで、結構な数の人が鳥居をくぐっていたようだ。いいのか世界遺産。
エリート(プロ選手)の紹介、激烈スタートを経て、俺たちのスタート時間が近づいていく。
今回は初めての2.5km。2.5kmを泳いだのは直前のプールで一回きり。しかもコースはワンウェイ。周回コースみたいに、陸地が近くに見えず、ゴールまでは距離を測るものが時計以外にない。しかも満潮から干潮に変わるタイミングで潮の流れが激化し、ぼーっとしてると海の方に引きずり込まれるらしい。
大丈夫か俺。1.5kmのスイムなのにたった50mで溺れた4月の沖縄のデビュー戦がイヤでも思い起こされる。
ついに、2.5km、引き返せない戦いが始まる。
***
プァーーーーン!!!!!
スイムがスタートした。前回、調子に乗って飛び込み、一気に心拍が上がって溺れた反省を鑑み、今回は少し後ろからのスタート。
そうは言ってもスタート直後。人がうじゃうじゃいる。遅い人ほど後ろからスタートするから、なおのこと混む。
右に左に人がガンガン当たってくる。前回はこれで心がぽきりと折れた。
今回は?
ぜーんぜん大丈夫だった。全く動揺がない。隣に人がいても、ぶつかってきても、なんとも思わなかった。
もともと極真で速くて強烈な蹴りをしょっちゅう受けてる身。水でスピードも威力も減殺された蹴りや体当たりなど、慣れてしまえばなんともない。
途中、人とぶつかって混乱したのか、見るからにあっぷあっぷになって顔を水面から出している人が何人かいた。
俺は心の中で言ってやった。『分かるぜブラザー、その気持ち。俺もそうだったからよーく分かる。お前の苦しみを俺は知ってる。だが、俺は克服したぜ。アディオス。』
たった3ヶ月前に溺れたくせによく言うと自分でも思ったが、事実だった。この日の俺は、前回とは別人のように落ち着いていた。
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少ない経験で理解したスイムのコツは、一つはとにかく最初の数百mで落ち着くこと。そしたらあとは巡航速度で泳げる。巡航速度にたどり着く前にパニクるから、リタイヤしたりタイムが崩れる。
もう一つはヘッドアップ。何呼吸かに一度は正面に顔を上げ、目標との乖離を確認する。海には流れがあり、プールのように線も引いてないため、まっすぐ泳ぐことは至極難しい。このヘッドアップをしないと、2.5kmのスイムなのに、3kmぐらい泳ぐことになってしまう。
このヘッドアップ、概念としては人生や仕事にも通じるなとか考えながら泳いでいた。自分が目標にまっすぐ進んでるなと思ってそれを確認しようと海面に顔を上げると、全然違う方向を向いていることがある。
人間は、なんだかんだいって自分のことを信じている。自分の感覚が世界で一番正しいと思っている。だからその感覚に従って、『最短距離で最大効率で』目標に向かっていると思って進んでいるわけだけれども、ふと現在地やベクトルを確認するととんでもないところにいるということもある。よくある。しょっちゅうある。そうでないことの方が珍しいぐらい、人間の感覚というのはアテにならない。
さてそんなとき、大事なことは、
(自分がこうだと思っている)感覚<(ズレているという)事実
というように優先順位を事実に置いてすぐに修正できるかどうかだ。
新宿から東京駅方面に向かおうとしているのに、行き先に『高尾山』と書いてあったら、それは乗る電車を間違えている。どれだけ自分が正しいと思っていても、その信念だけでは電車の向きを変えることは出来ない。出来ることは、すぐに電車を降りて逆方面の電車に乗ることだけだ。
バカな思われるかもしれないけれど、日々の生活の少なくない場面で、東京駅にたどり着けることを心から信じながら、高尾山行きに乗っていたりはしないだろうか。
***
驚くほど落ち着きながら、そして自分的には決して遅くはないペースで、俺は泳ぎ続けた。
こまめにヘッドアップをして、付いていくべき人をその場その場で乗り換え、大きな目印を確認しながらひとかきひとかき水を押していく。
泳ぎながらかなり心臓に負荷をかけるトレーニングを重ねていたおかげで、巡航速度程度では、ほとんどドキドキしなくなった。
時折人とぶつかったり、呼吸の時に水を飲んでしまったりしても、自分でもびっくりなぐらい、何も感じない。
俺、成長しとるがな。
成長、成長、成長。
成長って、楽しい。
成長って、子供だけの専売特許ではないんじゃないの。
成長って、何歳からでも出来るんじゃないの。
人間の三大欲求は食欲、睡眠欲、性欲だが、これらはいずれも生物の生存と存続に関わるもの。生きるか死ぬかのライン上にある。
それを超えたところの人生の充実を追求するためには、この成長欲というのは欠かせない気がする。
ヘッドアップしないとなかなか一直線には成長できないけど、それでもフラフラしながらの成長もそれはそれで楽しい。
***
意外とやれるなー、なんとかなるなー、と思いながら一生懸命水をかいていたら、いつの間にかゴールのピンクのバルーンが見えてきた。
あれ?もう終わり?
意外過ぎるほどあっさりゴールにたどり着いた俺は、時計を確認してみた。
47分。
50分で御の字かと思ってたから、ちょっと驚いた。ラッキー。
疲労は上半身のみ。達成感は上々。
俺はまごつきながらトランジットエリアで着替え、みやじまトライアスロンの最大のウリである激坂を擁するバイクのコースに繰り出していった。
なんだか、少しアイアンマンが見えた気がしたスイムだった。
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世知辛い世の中でこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。
引かぬ媚びぬ省みぬ!
我が人生に一片の悔いなし!
 
 

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