2.5kmのスイムで思わぬ僥倖に恵まれ、47分という予想もしないタイムで上がることが出来た俺。次は55kmのバイクだ。
55km。『ミドル』の大会にしては、少なすぎるように思える。ショートの40kmに対し、普通のミドルのレースであれば、90kmが普通だ。
参加者をナメてるのか?
***

ナメてるのは俺だった、激坂2.0

バイクはスタートしてすぐに坂道が現れる。
こしゃくな、と一蹴する。
一蹴したあとにまた坂が現れる。今度はかなり長い。途端にスピードが落ちる。
慣れてる人はすいすい上っていくが、体重が重くマシンも登坂には弱いタイプのため、全くスピードが出ない。
その分平地や下りではガンガン抜いたのだけれど、いかんせんこのレースの主役は坂。
上りが終わったと思ったら下りで、そのあと平地かなと思ったらまた上り。スピードを減殺される機会は多くあるのに、スピードに乗れる機会はほとんどない。
ある程度予想していたものの、ストレスが溜まる。
***
途中、そうは言っても何度か平地があった。『ツールドフランスみたいな応援が突然始まりますよ。』と前日に主催者の人が言っていたのだが、さすがにそこまでの人口密度ではないにしても、ある角を曲がると突然応援団が現れた。全部地元の人だ。
こちらは自転車なので、ランのときのように一人一人の顔をあまりじっくり見ることが出来ない。こういうときに応援をしてくれるのは、大抵は子供とその親御さん、そしてばあちゃんたちだ。じっちゃんたちはなぜかあまり見かけない。
個人的には5歳以下の男の子とばあちゃんたちの応援が特に嬉しい。前者はまだ俺の家に存在しておらず、後者は早くに別れることになってしまったからだろうか。
頑張れー!頑張れー!と子供が叫んでくれる。『お、おまえたち・・・(プルプルプル)』と勝手に感動しながら走る。ばあちゃんたちが微笑んでくれる。こちらも微笑で返す。
高速で走る自転車なのであまり無茶は出来なかったが、出来るところで片手をあげて応えると、応援団がわっ!と沸き立つのが分かった。こんな初心者を応援してくれてありがとう。
車からの応援もスゴかった。俺たちのレースのせいで、一通りの交通規制を行わねばならず、反対車線は見るのも申し訳ないほどの大渋滞。
都心だったら間違いなく文句言われたりしていただろうと思うが、この日は誰からもクラクションの一つも聞こえてこない。それどころか、窓から必死に子供たちが『頑張れー!!』と応援してくれる。
ありがとう!
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さて、問題の坂である。
今回は、主に前半と後半に二つの長い坂がある。
前半の坂はなんとかなった。そして綺麗に限界を迎えた。
マリオカートにおいて、スタート直後や壁にぶつかったりしてスピードが落ちたドンキーコングやクッパは、全くの役立たずと言えるほど波に乗れない。平地や直線が長いレースでは強いが、こまめにカーブや坂の登坂を強いられるコースだと、舌打ちしたくなるほど遅かったのを覚えている。
それと同じ。
俺は坂道が現れると、途端に大減速した。誰かに後ろから引っ張られているみたいに遅い。
気合いと根性があればなんとかなると思っていたけれど、もともと気合いと根性があまりないことに気づかされた上、平均よりは上かなと思っている多少の筋力ではどうにもならなかった。
一日500回ほどの腕立てや、一日千回ほどのスクワットをこなす、一体何を目指しているのか分からないシハンさんは、このコースを評してこう言っていた。
『人がどこで何を嫌がり、どこで苦しむかをよく分かってるコースだった。』
どSやん。
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まだ体得できていないのが大半だけれど、バイクにおける坂道の登坂も、一応の原理原則がある(らしい)。
・筋力を使うとすぐに疲弊してしまうため、心肺を使う。
・筋力でペダルを踏むのではなく、体重の移動で踏む。
・座ってダメなときは立つ。立ってダメなときは座る。ポジションチェンジで気を紛らわす。
・腹筋で上る。
いくつかは心から納得できていて、いくつかはまだ半信半疑なのだけれど、ともかく上りは上りで鉄則があるようだ。
最近思うが、気合いと根性は大切だが、気合いと根性だけではどうにもならないことが世の中では多々あるということ。
物事には道理や道筋があり、そこを外れると全くもって目標が叶わない。バイクで坂道を上ることに関して言えば、筋力で上るような上り方をしている限り、絶対に今以上に速くはならない。
気合いと根性はとても大切だが、正しいやり方の上に正しく乗せる必要がある。
このへんはまだまだ修行が足りない。バイクもランも、単純作業だからこそ、正しいやり方を会得している人とそうでない人の差は、圧倒的なまでに開いてしまう。
***
というわけで最後の上り坂。標高850mまで上る。
どこまでいっても終わらない上り坂。もうダメだと思ったその先にどこまでも続く。バイクは一番楽しいパートのはずなのに、ただただツラい。
乳酸の溜まった脚が悲鳴をあげる。腰がギシギシ痛む。背筋もピクピクいっている。油断をすると吊りそうだ。というか、そういえばさっきから吊っている。
周りを見ると、不思議なほど皆すいすい上っていく。いや、そう見えるだけで本当はみんなツラいのだろうけど、俺から見ると、坂道を『知っている』ように見える。
考えてみれば、これほどの坂には初めてお目にかかる。やはり初体験は甘酸っぱい。二回目だったらもう少し慣れているはずなのに。
もうダメだ。
もうダメだ。
もうダメだ。
何百回か思ったその矢先、プチリと何かが頭の中で切れた。
俺は、山道半ばでバイクから降りてしまった。あまりにツラい。ごめんなさい。
***
『どうした山岳ジャージ!』
『根性見せろ!』
応援なのか罵声なのか分からない、その中間のような声が容赦なく周りの参加者から浴びせかけられる。
しもうた、俺が着てるの、『山岳ジャージ』だった。
※ツールドフランスで『山岳ステージを制覇した者』に贈られるジャージ。これを着てる時点で、『めっちゃ山に自信ありますけど何か?』という雰囲気丸出し。真相は赤の水玉が可愛かったから買っただけ。
写真
 
すいません!ひー!
すいません!ふー!
すいません!ひっひっふー!
一度地に脚をつけてしまった俺は、その直後にまた地に脚をつけてしまい、負け犬さながらの調子でラマーズ法を繰り返しながら坂を上っていった。
なんだか分からない間に55kmを走りきり、一敗地に塗れながらランへのトランジットに入った。
修行が足りない。ただそれだけのバイクだった。
出場者433人中、179位に上がったスイムと異なり、265番という半分以下の成績。
情けない。
激坂2.0、ごめんなさい。
次はラン。
やっとラクになれる。
・・・と思ったのは、これまた大きな間違いだった。
***
さて、少し振り返ると、俺を含めポセイ丼の面々は、今回の激坂をなんとか完遂したことで、また一つ成長できたように思う。
大事なことは、成長、成長と一口に言っても、成長しているその最中の大半は、『成長してるな、俺』とは考えられないほど負荷がかかっているということだ。
つまり、その瞬間においてポジティブな感情はなかなか持てない。でも、その負荷に耐えて後から振り返ってみれば、あそこがターニングポイントだった、あそこで俺は変わった、と思えることは、少なくない数、経験してきている。
今回の激坂2.0がまさにそうだった。聞けば歴戦の強者のシハンさんは、『過去最高にツラかった』と言っていたし、師匠である元帥閣下も、その他のどのレースと比べてもダントツだったとおっしゃっていた。
そんな猛者たちが苦しむような坂を、なんだかんだと、敗色濃厚ながらもなんとか走りきったのである。
これは明らかな成長であると言える。だから今はこの激坂の経験をすごくポジティブに考えられているが、次に目指すのは、上っている最中にもポジティブになることだ。ポジティブになるタイミングを出来るだけ前倒ししたいってこと。
今のところ、すんごい坂が出てきたら、すんごいネガティブになるしかない。『キモチイイ!!!!!』と雄叫びをあげながら上れるようになれたら、かなり高レベルなどMだろう。
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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。
引かぬ媚びぬ省みぬ!
我が人生に一片の悔いなし!
 

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