スティーブ・ジョブズに伍する、ある男爵の話 #821


 

先日大阪出張にプレゼン大会参加のために行ったときのこと。

世にも不思議な漢に出逢った。ここではコードネームを「男爵」としておく。FBのページには、蝶ネクタイを身につけた自画像を登録してある、とてもロックな漢だ。

プレゼンの最中、自身の未来計画を話す段になって、男爵は言った。

「皆さん当然ご存知かと思いますが、あの斉藤靖がですね・・・」

知的な風貌で理知的に話す姿から発せられた名前に、僕は心当たりがなかった。そうか、自分が勉強してる方だというつもりになっていたけれど、まだまだ勉強不足だったんだな。「知ってて当然」てぐらいだから、皆知ってるんだろう。僕だけが知らないんだろう。経済人かな、歴史の人かな。

最後列に座っていた僕は、後ろから会場の参加者達を見渡した。なぜか全員の頭からハテナマークが出て宙に漂っている。あれれ??「知ってて当然」であるはずの斉藤靖を知らないヤツが、僕以外にもおるのかな。みんな教養ないな。。

男爵は続けた。

「まぁ、僕のなかの空想の人物なんですけども。。」

コントのように全員がずっこけた瞬間だった。

***

その後、男爵の話はとめどなくカオスを生み出していく。曰く、彼の言う「斉藤靖」が暮らす世界では、

▼斉藤靖の生きる世界では、9つの国が争っている。

▼こちらの世界からあちらの世界へは、斉藤靖ならば自由に行き来できる。

▼ドラゴンがそこかしこに住んでいて、そいつらをたばねるためにiPhoneが要る。

▼そのiPhoneはこちらの世界から持っていけるが、充電に関してはまだ仕組みが考えられていない。

▼今、その国の法律に詳しい人材を集めている。

▼以上の話の世界観を以て、2020年までに「TIME誌」に自分の名前を刻むこととする。

聞いてるだけで頭が痛くなり、ついていくので精一杯。空想や妄想なのかと思ったら、妙なところで「iPhoneの充電システムは未定」みたいな異様に現実味を帯びた話が展開されていく。

一緒に聞いていたメンツは、一人は泡を吹いて倒れ、頭脳明晰な弁護士は頭を抱えていた。全く意味が分からない。

思わず僕は聞いてしまった。

「い、いつからそうなっちゃったんですか、頭のなか?」

男爵は、真っ直ぐ僕の顔を見ながら、、キラキラと光る濁りのない瞳でこう言った。

 

「え?みんなこういうの考えてるんじゃないんですか?マジですか?」

 

 

マジですかとはこちらが言いたい。しかしあまりに純粋な物言いに、なんも言えねぇ。

僕には死んだはずのスティーブ・ジョブズが見えた気がした。

***

ジョブズは、様々な分野において天才だった。僕が特に注目していたのは、その説得力。誰もが見たことのない世界を、さもそこに存在するかのように話すことにかけて、彼は真に天才だった。

誰も想像出来ないものを想像させ、誰も経験したことないことを経験したかのように感じさせ、そうしてニワトリタマゴの関係性にあるものを同時に強制的に生み出して、世界を変えていった。ビジョンとか理念とかいう言葉は口にするのは至極簡単だけれど、ジョブズのように今ないものをすぐそこにあるものとして語ることは、本人が1000%それを信じていないと難しい。

「100%勇気」ではダメなのだ。

そしてこの偉大な経営者と、「男爵」がかぶって見えたのがこの日。

男爵は僕たちが次々と繰り出す質問に(妄想の世界の話にも関わらず)澱みなく答え、分からないことは分からないとか未定だとか言った。

つまり、それ以外の部分に関しては本当にそういう景色が見えているということだ。

あ、頭いてぇ。。

でも、すげぇ。。

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単純に合ってるか間違ってるか、現実的か非現実的かと言えば、間違ってるし非現実的な話だ。斉藤靖なんてものはいない。2020年にTIME誌に載るというが、あと5年は短か過ぎるだろうと思う。

東大卒で無表情がウリの(再受験して)医師志望の友人は、「あいつ、アタマおかしいんちゃうか。」と言っていた。彼の言うことはおそらくは正しい。無表情だけど。

ただ僕は、それほどまでに自分の思い描く未来に対して確信を持って何時間でも話せる男爵に、軽い嫉妬のようなものを覚えた。言ってることはめちゃくちゃだが、本当に凄いと感心してしまったのだ。

自分には果たして、誰に何を言われようがバカにされようが、この未来は絶対に自分がつくる!と言えるほど見えている景色があるだろうか、と自問自答せざるを得なかった。

たぶん、男爵は幸せだ。なぜなら、明確な未来が、すぐ手の届くところに見えているからだ。僕もこういう人生を目指そうと思った。ただ、斉藤靖とは仲良くなれなそうだとも思った。斉藤靖は40歳らしい。

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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

退かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!

我が人生に一片の悔いなし!!!