先日、ある中小企業の経営者が面白いことを言っていた。
その経営者は、自身が有能であるがゆえに何でもやってしまうタイプの方で、それがゆえに、自分の時間を使って完成度の高い仕事をいくつも抱えて、その結果自分の時間がないという悪循環にハマっているようだった。
「いやぁ、最近、思い切って人に任せてみたら出来ちゃったんですよ。」
「前は任せてなかったんですか?」
「多少は任せてたんですけど、どうしても100%のものが出来てこないから自分でやっちゃってたんです。」
「たしか自分でやったほうがクオリティ高いって言ってましたもんね。」
「そうそう。でも、よく考えたらちゃんと任せれば80%のものは出来てくるので、そしたらあとは僕が残り20%について指示すればいいってことに気づいたんです。
80%だからって、100%じゃないからって、全否定する必要はないていう当たり前のことなんですけどね。
任せてみて気づきましたけど、結構出来てくるんですよね、成果物が。『あれだけ徹夜してたのはなんだったんだ!』て感じですよ。今は自分の時間が取れて、囲碁もちゃんと出来てますよ、わっはっは。」
経営者は囲碁をやりなさいと僕に無茶ぶりされて、時間がないなか四苦八苦の末に生み出したのが、「任せる」というありそうでその人の選択肢になかったことであった。
***
この経営者の話は、第三者から見れば当たり前に思えることを、有能ではあれど当人だけは気づかない、もしくはそこに踏み出せないということが多いにあり得る、ということを如実に示している。
そしてまた、良い会社というものはどういうものか、ということを、考えさせてくれる良いきっかけにもなる気がした。
一般的に、経営者はゼネラリストであり、担当者はスペシャリストである。
技術出身の社長が現場の人間よりも技術に強いということは起業初期にはあることかもしれないけれど、時間が経つにつれ、会社の成長とともに徐々に経営者の専門性というのは、良い意味で失われていくものだ。
これが逆になると、結構ヤバいのかもしれないというのが今回の教訓。そんなことをこの経営者の話は教えてくれたと思う。
現場の担当者に比べて、経営者自身が彼の2割増しでその分野について強かったり詳しかったりというのは、あまりよろしくない。
営業担当者と経営者で言えば、営業担当者の方が営業に関して優れているべきであり、技術の担当者の方が経営者より技術に強くあるべきである。
スペシャリストはゼネラリストに、広さで負けても良いが深さで負けてはならない。
話の最後に、その経営者は言った。
「んで、結局色々任せてみて思ったんですよ。あれ?俺、いなくてもいいんじゃないかなって」
この方が経営する会社は、この瞬間に、間違いなく一段上のレベルに到達したのだと思った。
経営者がいなくても回る会社は、そうでない会社よりはるかに強いのである。
***

世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

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