本質的ではあるが1ミリも役に立たないアドバイスについて #1116


 

先日、ポチャスリートからムキムキマチョメンへ、ハート様体型からラオウ体型へ、グルド型体型からリクーム型体型になろうとして入った◯ールドジムで、意を決してトレーナーの人にアドバイスを求めてみた。

◯ールドジムというのは、筋トレ上級者〜超級者の巣窟で、僕なんぞ85kgもあるくせにもやし扱いにされるほどの魔境である。

そんな◯ールドジムでトレーナーにアドバイスを求める資格があるのもまた、筋トレ上級者以上、という雰囲気が漂っている。

運動初心者ではないものの、筋トレ初級者の僕としてはいささか気圧されながら、しかし初めてやる種目だったので勇気を出して歩いていた筋肉マスターのトレーナーに聞いてみた。

そのときの会話はこんな感じだった。

羅:「あの、デッドリフトをやりたいんです。」

トレーナー:「ほう、デッドリフトを?」

羅:「は、はい、あの、デッドリフトといえば、ベンチプレス、スクワットと並んで筋トレ3種の神器と言われてますよね?」

トレーナー:「まぁ、人によりますけどそうですね。」

羅:「それで、デッドリフトやると、もうそれはそれは背中が大きな漢になれるんですよね?背中を見れば全部書いてある、みたいな。」

トレーナー:「そうですね、やり方は人によりますけど。」

羅:「じゃあ、どれぐらいやればいいんですかね?」

トレーナー:「それは人によりますね。」

羅:「分かりました、自分なりにやってみます。また質問させてください。」

こんな感じだった。

もう何を聞いて良いかも分からないので会話が続かず、さっさと退散するしかなかった。

フォローしておくと、トレーナーはめちゃめちゃ感じの良い兄ちゃんで、決してぶっきらぼうに言っていたわけではない。

むしろ色黒で白い歯を輝かせながら、上記の言葉を笑顔で言っていたと思っていただきたい。胸筋をピクピクさせながら。

***

上記の会話で言えることがあるとしたら、次の2点が挙げられる。

 

1、質問する側が完全な素人である。

僕は自重での腕立てやスクワットはそれなりにやってきたが、器具を使った筋トレを体系的にやってきたわけではない。完全な素人である。

で、素人がゆえに質問に脈絡がなく、方角が定まらない。

確かにデッドリフトはやりようによっては大きな背中にもなれるし、ラオウのようになるのも夢ではない。しかしそうなるための目標設定や現在地が、そのときの僕には全然分かっていない。

目指すところもあやふやであり、現在地すら分かっていないのが素人の特徴である。そして人は誰でも、どの分野でも初心者からしか物事を始められない。

 

2、トレーナーのアドバイスは完全に正しい。

そういうわけで、トレーナーはこの迷える子羊に本質的に正しい回答を与えてあげようとして、「人によりますね。」と答えていたわけである。

なぜなら、本当に「人による」からだ。

現在の筋力はどうか、筋肉の付き方はどうか、生活習慣や運動習慣はどうか。そういうことが分からなければ、アドバイスのしようがない。

最大筋力を引き上げたいのか、筋肥大を目的にしたいのか、シェイプアップなのか、それが分からないとメニューの組みようもない。

つまり、ここでトレーナーが「人による」と答えたのは、完全に正しい。

 

素人の質問に対し、トレーナーの答えは完璧に正しいものであった。

しかし、果たして素人の僕は、少しでも前に進んだ感じがあったであろうか?筋トレを頑張ろうという気持ちになったであろうか?少なからぬ希望が湧いてきただろうか?

答えは

である。

それはなんとなくわかってもらえると思う。

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これはどの業界、どの分野でも起こりうることだと思う。

テニスで初心者の人に「上手くなりたい」と言われたとしても、それは

エドバーグのような完全ネットプレイヤーなのか、

サンプラスのようなサーブで大きく崩すタイプなのか、

フェデラーのようなオールラウンダーなのか、

ナダルのような攻撃的ストローカーなのか、

ブルゲラのような超絶シコラーなのか、

錦織君みたいに歯茎を全面に押し出して八双飛びをしながら攻めるプレーヤーなのか、

どれを目指すかによってやはり練習方法は全然変わってくる。

時間がどれぐらいあるかによっても違う。1年しかない、ということであれば、武器を1つ磨き、それ以外は最低限、というふうにしないと身に付かない。

再来週の試合に出なければいけない、ということであれば、上手さ云々よりも勝てるテニスを仕込まねばならない。ポイントを取るより失うことが多いテニスの場合、いかに相手にミスをさせるかがポイントになる。

初心者だけど今5歳です、ということであれば、時間をかけてある程度なんでも身に付かせてあげることができる。錦織くんみたいにアメリカに留学させる、なんて選択肢もあるかもしれない。

つまりは結局のところ「人による」のである。

***

同様に、

「良いマンションを教えてください。」と言われれば、専門家は「人による」としか答えられない。

「良いガンの治療法を教えてください。」と言われても、専門家は「人による」としか答えられない。

「美味しいレストランを教えてください。」と言われても、専門家は「人による」としか答えられない。

そして勿論僕も、「良い保険を教えてください。」と言われても、やはり「人による」としか答えられない。

それは専門家から見れば本質的で正しい回答であり、そして素人から見れば1ミリも役に立たない回答となる。

専門家から見れば、誤っている情報こそが1ミリも役に立たない情報であると思いがちでなのだけれど、それはそれとして、素人に前進をさせてあげられない本質的なアドバイスも、やはり当事者にとってみれば1ミリも役に立たないという視点を忘れてはならないと思う。

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どうすれば良かったのだろうか?

素人から歩み寄ることは正直なところ難しい。何が分からないかも分かっていないのが素人であり、先日の僕はデッドリフトについてまさにそういう状態だったからだ。

ならば、専門家から歩み寄るしかない。専門家は、素人が全10合のうち、0合目にいるのか1合目にいるのか、あるいは細かく1.5合目にいるのか、目指すところが8合目なのか頂上なのか、専門家ゆえにほんの少しの会話から見極めることができる。

トレーナーは、こういうふうに僕に語りかけても良かったのではないだろうか?

「デッドリフトですか、なるほど。

ではその前に、お伺いしますが、目指すのはトキのような細マッチョですか?それともラオウのようなゴリマッチョですか?あるいはケンシロウのような憂いを帯びた並マッチョですか?

Tシャツをほあちゃあと破りたいのであれば、ケンシロウかラオウじゃないと無理です。トキはある意味でただの引きこもりですから。

ラオウになりたければデッドリフトは150kg挙げられないとダメです。あと馬主になる必要があります。

今デッドリフト何kgですか?80kg?あーじゃあミジンコレベルですね。修羅の国じゃ生きていけません。

トキを目指すならデッドリフトの前に痩せてください。今のあなたは北斗神拳を伝承する資格のない、ハート様体型です。」

なんて感じで。

これならば、理論的には細かいところでおかしい点があるかもしれないが、素人ながらにおおよその予想がつく。しかも自分の専門分野に置き換えて話をしてくれたので、程度も分かるし俄然やる気が出る。

「勿論ラオウです!!!」

と答えて全力でそこに向かうのみである。

「北斗の拳」がマチョメンの巣窟に見えて見分けが付かない人はこちらをご参照。

 

世の中一般的に、ウソはよくないと言われる。

それはその通りである。

しかし、どの分野であれ専門家と素人の力量の差が圧倒的である以上、必ずしも全面的に正しい本質的な回答だけが、素人を満足させ、前進させるわけではないということを、専門家各位は知っておく必要があると思う。

特にドクター、大学教授、士業、そして何より親は、それぞれ患者、学生、社長、子どもに対して専門家であるからして、その専門性の高さにふんぞり返って歩み寄りを怠ってはならない。

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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

退かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!

我が人生に一片の悔いなし!!!

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