その道の専門家にその道の成功の仕方を聞いたら、「さぁ?さっぱりです。」という答えが連続して返ってきた話 #1119


 

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「専門家」とは、その道のプロフェッショナルのことである。

たとえば僕は生命保険の専門家だし、家ではおませ度が増してきた1号機と、珍獣度が炸裂している2号機の専門家である。

専門家とはプロフェッショナルであるからして、その道のことは何でも知っているはずと期待され、またその道において成功する方法についても当然のごとく把握していると思われている。

プロ野球の4番打者はヒットやホームランを量産する方法を熟知しており、大企業のプロ経営者は何をどうやれば会社の業績が伸びるかを熟知している。そのようにみんな思っていると思う。

今日は、そんな専門家像がガラガラと崩れ去った話をしたい。

***

ある日、僕は新しい扉を開けた。

出版社の人と会ったのだ。

今までの僕にとっての出版社とは、伏魔殿だった。

本屋には世の中で選ばれし人々の本が並び、その本を出版している出版社は、利権と叡智の巣窟。

とてつもない知能と実績を誇る人たちが、暗い会議室でミリオンヒットの本の企画をパワポやCG、3D映像を使って議論している。モナカはすべて黄金製。

そんなイメージを持っていた。

ところが、目の前に現れた編集者の方は「出版社の人、どこですか?」と言いたくなるぐらい、普通の人だった。

ドンペリとグラスを片手に、ピカピカのベルルッティを履いた人が蝶ネクタイで現れると思っていた僕は、大変失礼ながら若干拍子抜けしたことを覚えている。お会いした方は、完全にして何の変哲もない私服だった。

要するに、相手は普通の人間だった。

***

僕はミーティングが始まると同時に、業界では「ファクトファインディング」と呼ばれる傾聴の手法を使って、矢継ぎ早に質問を繰り出していく。

相手に健全な興味を持って全力で聴こうとすると、大抵の人はかなり深いところまでちゃんと答えてくれる。

宴もたけなわになり十分に打ち解けた頃、僕は、前から気になっていたある質問をしてみた。

 

「やっぱり◯◯さんほどのプロの編集者ともなると、どうやったら売れるか、どうやったら10万部とか100万部に届くかってのが分かるもんなんですよね?」

 

その方はしばらく逡巡した後に、こう答えた。

 

 

「さあ?正直なところ、さっぱりです。」

 

 

 

え?え?なんて?

ちょとまってちょっとまてお兄さん。

専門家なのにそんなことも知らないの?

正直に言えば、僕はそんな感想を持った。

ウソだと思ってその後もあれこれ聞いてみたけれど、この方はこの問いに関しては本当にさっぱりなようだった。

断っておくと、今まで何冊もヒット本を出している方だった。

あーその本知ってます。その本も知ってます。その方が出した本は、どれもちょっと本を読む人間なら誰もが知っているようなものだった。

知っていて当然なはずのことを知らないのはどういうわけだ、と思ったものである。

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別の日に、とある超大手広告代理店の幹部の方と知己を得る機会があった。

いわゆるクリエイティブ職の組織を率いる方で、これもまた僕から見れば伏魔殿出身の方だった。

高級シティホテルの暗いエグゼクティブスイートルームで美女たちが乱舞し、両手にドンペリを持った紳士たちがパワポとCGと3Dと3Dプリンタを駆使して数十億規模のビジネスの話をしている。

そんなイメージを広告代理店のクリエイティブ職には持っていた。

「日本を牛耳る」、「世界を動かす」。そんな言葉がぴったりな業界だと思っていた。

***

宴もたけなわになった頃、例によってこんなことを聞いてみた。

 

「やっぱり◯◯さんほどのプロのクリエイティブともなると、どうやったら流行るCMになるか、どうやったら爆発的に商品とか会社の認知度を上げられるかって、分かるもんなんですかね?」

 

その幹部の方はしばしの間逡巡した後、こう答えた。

 

 

 

「さぁ?ぶっちゃけたところ、さっぱりですわ。」

 

 

 

出版社の方と会った後だったので8.6秒バズーカー状態にはならなかったが、「ブルータス、お前もか」感はやはりあった。

マジか、こんな優秀そうな人でも分からんもんなのか。

その後、この幹部の方はこんな話もしてくれた。

 

「僕たちって外からは華麗で豪快な『仕事』をしてると思われてますけど、実際のところはほとんど『作業』ですよ。地味なことをガリガリやってるだけです。」

マジか、そうなのか。いや、そうなのかもしれない。。

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また別の日、僕はなんとあの「MENSA」の会員の人と会うことになった。

MENSAとは、全人口のうち上位2%の知能指数を持つ人が所属する組織。1946年にイギリスで創設され、日本にも約2000人の会員がいる。

有名どころで言えば、ジョディ・フォスターやアインシュタイン、日本人だとロザン宇治原氏や農家学者茂木健一郎氏が会員だ。

MENSAの会員ではないが、金田一少年級の頭脳を持った人がゴロゴロしている場所だと思って差し支えない。

最近はテレビでMENSA会員を見る機会が多いので、ご存知の方も多いかもしれない。

僕もMENSAを知らないわけじゃなかったけれど、やはり僕にとっては伏魔殿であった。フリーメイソンやビルダーバーグ会議、イルミナティなどと同じ、超高知能の秘密結社。

パワーポイントやCG、3Dなど凡民の文明の利器は一切使われず、AIロボットやそれを開発した超天才たちがリヒテンシュタインのタックスヘイブンで年に1回集まり、世界の趨勢や宇宙支配について語る。

そんなイメージを持っていた。

***

僕が出逢ったのはMENSA女子。

MENSA童貞だった僕は、色々と怒濤の勢いで質問をした。

 

「普段、どんな会話してるんですか?やっぱり物理がどうだとか数式がどうだとかピタゴラスとかアルキメデスがとかいう話がメインなんですか?」

「いえ、カレーの話をしています。」

 

お、おう、カレーの話か。いやしかし、常人には及びもつかないカレーの話なんだろう。

 

「カレーですか。それはスパイスの原子構造とか、原子と分子を分離させると味が変わるとか、そういう話に結びつくんですか?」

「いえ、どこのカレーが美味しいとか、そういう話をしています。」

 

も、もう驚かないぞ。

相手も人間だ。食う寝る出すぐらいはするだろう。

宴もたけなわに近づいてきたので、例によってこういうことを聞いてみた。

 

「やはりMENSAの人ともなると、世界の流れとかAIがこれからどうなるとかとか、人口爆発しても世界がやってくためのエコシステムとか、なんでもわかっちゃうんですか?」

 

MENSA女子は数瞬の間黙したあと、おもむろにこう答えた。

 

 

「さぁ?さっぱりです。ぜーんぜんなんにもわかりません、おほほほほ!」

 

 

そのあと、MENSA女子はこう付け加えた。

「MENSAってのは、ただパズルが上手い人たちの集まりですよ?」

これには面食らった。

知能が高いことは成功を必ずしも意味するわけではない、ということのようだった。

***

出版の専門家、広告の専門家、知能の専門家と3つの分野の専門家に話を聞いたが、事が核心に至ると、これらの専門家はみな口を揃えて、

 

「さぁ?さっぱりです。」

 

と言った。

そして、思い返せば他の業界の専門家に話を聞いたときも、表現は違えど同じようなことを言っていたように記憶している。

そう言われてみれば、生命保険の専門家である僕も、どういう人が保険に入るか?と聞かれたとしても、同じように

 

「さぁ?さっぱりです。」

 

と答えていたと思う。何だ、自分も同じことやってたじゃないか。

***

では、専門家とは何なのだろうか。

その道での成功の仕方を知らないという意味では、素人も専門家も何も変わらない。しかし誰もが既に知っている通り、そうは言っても素人と専門家は違う。絶対に違う。

僕の今のところの答えはこうである。

専門家とは、

その道での成功方法を必ずしも知っているわけではないが、正解にできるだけ早くたどり着くための手法や考え方や理論を数多く試すため、その前提となる知識と選択肢と行動力とコミットメントを持った人材であり、その結果として経験と技量が一般人よりも上回った人間のこと

である。

要はホームランの打ち方はいつまでも分からないけれど、バットを1回振っただけのヤツは素人のままであり、一方でバットを100万回振る道程で信じられないほどの回数のPDCAを回すことのできる人間はホームランの専門家となっていくのである。

とはいってもどこまで行ってもこれだという答えは見つかるわけではない。人生、面白いものだ。

***

世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

退かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!

我が人生に一片の悔いなし!!!

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