かつてオリンピック代表にもなったこともある有名マラソン選手(伊藤弘子氏・仮)が、度重なる万引きで捕まりまくっていたことが発覚した、という話が朝のテレビで流れていた。(気になった方は調べれば名前は出てきますがそれは本質ではないため割愛)
芸能ニュースがメインを占める朝の番組なので、こういった話がお茶の間に展開されることそれ自体は別に良いのだけれど、驚いたことに執行猶予期間中の伊藤氏を番組に招いて、芸人アナウンサーの加藤浩次がインタビューしていたのには閉口した。
期待通りの答えが出ないと何度も何度もしつこく聞き直すその姿勢には嫌悪しか感じず、仕事とはいえメディアって腐っとるなーと思わされた一場面だった。
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 「窃盗病」という病気

印象的だったのは、伊藤氏の症状に「窃盗『病』」という名前がつけられていたことだった。万引きをしてしまう原因が、意志が弱いとか、だらしないとか、故意だとか、そういうのではない。もはやれっきとした病気であり、万引きしてしまうのは仕方ないことなのだという。
当初、「んなわけあるかい、正当化すんな」と思って見ていたが、番組が進むにつれ、「これは本当に病気なのかもしれない」と思うようになった。
 
本人曰く、
・最初の万引きが見つかり、捕まったあとも度々繰り返してしまう。
・気づいたら万引きしている自分に気づく。
・逮捕され、二度とすまいと思っても、いつのまにか万引きしている。
という流れを繰り返し、ついには有罪判決まで食らったという。
どこかの時点まではいつでも引き返せる遊びに過ぎなかったはずなのに、いつのまにかルビコン川を渡ってしまい、引き返せない場所まで行ってしまう。そして、それ以降は自分の意志ではどうにもできない。
これは確かに「病気」であると思われた。
 
アルコール中毒、ギャンブル中毒、ダメ男中毒など、僕の辞書にはなく半ば軽蔑していた世界の方々も、おそらくは伊藤氏と同じ、「病気」なのであり、本人の意志とは無関係にある条件が整うと発動してしまうのだろう。
病気には原因があり、原因があるから症状があり、症状を発症させないようにするためには治療が必要。僕はそれらに苦しむ人々を、十把一絡げに「意志が弱いから」と断罪してしまっていたが、その発想自体がどうやら間違いの元のようだった。
そういえば自分にもあんな「病気」やこんな「病気」がたくさんあるのに、自分の事柄については自分の意志とは関係ない「病気」という免罪符的言葉で済ませつつ、他方でアル中やギャンブル中の人たちに対しては「意志が弱いから」とダメ人間のタグをつける。なんてことをしてたんだろうと反省した。
 
伊藤氏は「擬似万引き」によって更生を図ったのだという。
「擬似万引き」とは、同じく「窃盗病」と診断された万引き常習者の人たち専門の更生施設の中で、擬似コンビニのようなところで万引きをし、都度係官に捕まるというもの。我々からすると常識の範囲外というか、何をやってるのかの意味すらわからないが、これが効果があるのだという。
擬似的に万引きをして捕まり、モノを取り上げられることで、「万引きは意味のないことなのだ」と少しずつ少しずつ、脳に分からせていく。そしてこれを繰り返すことで脳が「万引きは意味がない」と覚えたら、治療完了。もう以前のように、万引きに価値を見出すことをしなくなるのだという。
にわかには理解しがたいが、そういう病名があり、そういう治療方法が確立されているのだから、きっと話としては真なりなのだろう。朝いちから結構ビビらされた話だった。
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 「病気」と括ることの意味と価値

安易に「病気」と括ることで、「病気なんだからしょうがないじゃん」と開き直る人が多く出ることは本望ではないが、しかし「病気」と括ってあげるべき人が存在するという点が、この番組を見た上での大事な教訓の一つとなった。
万引きをしてしまうのは、意志が弱いからである。それすなわち、意志を統御する能力がないからである。だから万引きを繰り返すのは人格の欠陥であり、万引きをしないという最低限の意思決定すらできない、劣後した人間である。・・・というようなレッテルを自分で貼ってしまうと、あるいは他者から貼られてしまうと、もうその人間は更生する機会を失う。
自己概念はどこまでも下がり、それまであったはずの意志すらも、薄弱化してしまう。
 
「病気」であるからには罰則を与えることがほぼ無意味であり、治療しないことには何も始まらない。事実、万引き常習犯には、今回の伊藤氏のように再犯を犯してしまう人が非常に多く、今まではそれを繰り返すたびにさらなる罰を与える形で制御してきたのだという。
それが近年、意味のないことだとわかり、「擬似万引き」のような治療の仕組みを使って、常習者たちを社会生活ができるまでに更生させている。その効果は如実に現れており、伊藤氏自身も就職するに至っていた。
 
僕自身のことを振り返っても、いくつかの点においてどうしようもなくやってしまうあれこれが、あるにはある。たとえば卑近な例で言うと、仕事を残したまま家に帰り、娘たちを寝かしつけてから夜中に仕事をしようとしたことは、何度もある。
しかし逆に毎回娘たちに寝かしつけられるハメになり、気づいたら朝だった、ということが頻発した。僕はそのたびに「自分は意志が弱いダメなやつなんだ」と自分を貶め、自己概念を下げること数十回。結構自信をなくしていた。それぐらい、娘たちの寝かしつけ圧力は強烈だった。だって匂いが甘いんだもの。
 
最近は、これを「病気」だと思うようにした。僕は悪くない。だって病気だから。病気には原因があり、その原因は「仕事を残したまま家に帰る」という努力不足と、「寝かしつけたあとも仕事ができるはず」という甘い見立てであった。
そして治療方法はといえば、「寝かしつけ業務が発生する日は是が非でも仕事を終わらせて帰る」という、非常にシンプルな解に落ち着くこととなった。言われてみれば当たり前のこの解も、「自分の意志が弱いから寝かしつけのあとに起きれないんだ」と思ってる間は、そこまで考えが至らなかった。
なぜか意志の力が全く働かない領域は誰にもあり、それは無意味な意志力で対抗するのではなく、仕組みでなんとかするのが正しい戦い方である。
 
ちなみにライザップに通って2kg太ったほどの「ダイエット苦手病」なので、僕を仕組みにハメてくれる人を募集中。90kg10%のカラダにしてくれたら、サウザー様のピラミッドの最後の石を載せる権利をプレゼント。
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