2018年の大晦日に、「世紀の戦い!」とされた那須川対フロイド・メイウェザーの一戦。
てっきり全国民が見てるものと思ったら、紅白の40%超えに押されて視聴率はたったの7.5%だったらしい。がしかし!これから伝説を作る漢と、すでに伝説となっている漢の一戦であり、その価値はいささかも毀損するものではないと信じている。
世紀の一戦と題したにも関わらず、たったの1R2分ちょっとで那須川天心が3度のダウンを奪われてタオルが入ってしまったので、何がなんだか分からないうちに終わってしまったと感じる方も多いと思う。
ということで、極真空手歴10年の不肖わたくしめが、天心対メイウェザー戦を素人に毛が生えた程度の目線でお送りしたいと思います。「格闘家目線」ではなく、「格闘技経験者目線」であることに注意。極真空手茶帯ですので、そんなに強くありません。
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2人の概説
そもそも誰と誰が戦ったのかよく分からない人もいるかもしれないので、少し解説。
那須川天心は、16歳でデビュー以来、キックボクシング28戦全勝の「神童」と呼ばれる20歳のサムライ。下記映像を見てもらえば分かるけれど、めちゃくちゃ強い。


54kg〜58kgあたりが適正体重であり、ボクシングで言えばスーパーバンタム級からフェザー級の間らへん。「はじめの一歩」の主人公・幕ノ内一歩がフェザー級なので、ほぼ同階級。ちなみにあだずは90kgオーバーなのでヘビー級。マイク・タイソンと戦わにゃいかん。
とある信頼できる筋からの情報によると、K-1でブイブイいわせてる武尊(たける)よりはっきり分かるほど強いらしい。どっちが強いかは直接対決をしてくれれば分かりやすく結果が出るのだけれど、K-1側がドル箱の武尊に土をつけたくないため、いつまでもダラダラと対戦させないようにしているとのこと。
色々諜報機関を使って調べたところ、K-1は一旦参戦するとK-1以外での試合を禁ずるなどの束縛が激しく、武尊以外に大して強い選手のいないK-1に、天心があまり魅力を感じていないとか。このあたりの「大人の事情」は毎度のことながら、気分が悪くなる。
全盛期のうちに、天心対武尊というカードを実現させてほしい。大人の皆さん、頼むよ。全盛期過ぎてからヌード出すみたいな話題作りだけはやめてくれ。マジでばかばかしい。
 
一方のフロイド・メイウェザー。こちらは解説の必要すらないように思われるが、格闘技の認知度が一昔前に比べて下がってる気がするので、念のため説明。
メイウェザーを端的に理解したければ、2つだけ知っておけば良い。
1、1試合で200億円超稼いだこともあるスポーツ長者番付けの圧倒的1位。"Money"というあだ名がつくほど、お金が大好きで豪遊、豪邸、高級車、美女に囲まれている。200億稼いだのはマニー・パッキャオ戦。タイガー・ウッズやCR7よりも全然稼いでいる。
2、キャリアを通じて史上初の50戦無敗で5階級制覇を成し遂げた。"パウンド・フォー・パウンド"(階級制のボクシングにおいて、もし階級を統一したら誰が一番強いか、というシミュレーションをした際の最強と思しき選手)に選ばれている。
1を先に書いたのは、それだけお金の印象が強い選手だから。本当にスゴイ選手だとは思うが、あれだけお金お金と前面に出せるのは、アメリカならでは。日本だったらいつものパターンで検察が動いて逮捕されたりしてそう。
 
あ、一個忘れてた。
3、クソヤロー。身内への暴力で数回収監されたり、前述のようにお金が全てみたいなライフスタイルを送ってたりする。今回は特にひどく、「やるよ」、「やっぱやめた」と試合の約束とキャンセルをほのめかしてワガママを全開にし、天心戦では直前に焼肉を食べ、試合前にはなぜか待機室に大量のチキンとアイスクリームを発注していた。
 
ある格闘家が言っていたが、格闘技界では「嫌われてるヤツは稼げる」らしく、その筆頭がメイウェザー。嫌われることが趣味なんじゃないかと思うぐらい、口も悪いし素行も悪い。しかし誰も勝てない。「はじめの一歩」で言えば、ブライアン・ホークみたいなヤツ。
この2人がすったもんだの末、大晦日に戦うことになった。当日、メイウェザーは対戦相手へのリスペクトを1ミリも見せることなく、しかし圧倒的な強さを見せて10億円ほど稼いで帰っていった。
 
試合後、「階級差を考えれば、やるべきじゃなかった」と言ってた解説者がいたが、別にいいではないかと個人的には思う。相手がメイウェザーだったら、僕だってやりたい。それぐらい、メイウェザーというのは憎らしくも伝説の漢なのである。
ということで、以下色々あったわりにはあっさり終わってしまった1R2分程度の試合の中で、何が起きていたのか、なぜ天心は負けたのかについて、解説したい。試合前も試合後も色々あったが、その色々をすっ飛ばして真面目な解説をば。
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天心対メイウェザー戦の諸条件

今回の対戦は、以下の条件で行われた。
・階級差はもともと体格差があるからしょうがないものとして試合を行う。(前日計量で4.6kg差)
・その代わり、グローブで差をつける。メイウェザーのグローブは重くてクッションも厚い10オンスのもの。
・ボクシングルールでの試合。メイウェザーはキックができないのでこれもしょうがない。
前日軽量で4.6kg差ということは、当日は6kg以上の差にはなっていたと思われる。ボクサーは前日計量からたった1日で栄養補給をして大きくなる。もともと体重が上のメイウェザーの方が、補給幅が大きい。
これを以って「格闘技の試合としては階級差がありすぎてあり得ない!」と後から叫んでいる人が多かったが、僕はそうは思わない。10kgだと致命的だが、5−6kgであればなんとかなるというのが印象。あれだけさっさと試合が終わってしまったのは、後で詳述するように、単純な実力差であったと思う。
 
ただしですよ奥さん!現れたメイウェザーは結構ぶよぶよだった。練習をしていないという噂の方を信じたくなる。これはまさか一矢報いるか!なんて期待を持たせる力は、天心にはあったように思う。
また、マウスピースもしていない。必殺の左を持つ天心が一発浴びせれば、よもや倒せるか!なんてことも期待してしまっていた。ヘラヘラしているし、どう見ても強そうに見えない。しかも、天心は現役で、メイウェザーはすでに数年前に引退している。(その後話題のあるワンマッチだけはやっている)
いけるか天心!と全国民が期待したとしても、無理はない。
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メイウェザー、無双
始まって30秒ほどは笑ったりダラダラしたりヘロヘロパンチを打っていたメイウェザーだが、天心のするどいパンチが頬をかすめると、ちょっと驚いたのか、一気にギアを上げた。
そこからは一方的で、わずか1分半ほどの間に3度のダウンを奪ってTKO勝利となった。エキシビジョンのはずなのに、圧巻の試合展開。細かいプロセスについては動画を見てもらうとして、天心の敗因についていくつか私見をば。
なお、天心はボクシングの才能も半端ではなく、歴代の世界チャンピオンから「天心ならボクシングでも世界を獲れる」と太鼓判を押される程度の実力はあるという前提でお読みくだされ。
 
1、階級差ではなく、実力差
やる前はあれだけ煽っておいて、終わった後には、「敗因は階級差、やるべきじゃなかった」という解説者のコメントには呆れるばかりだが、本当に階級差が原因か?というと、僕は違うと思う。
なぜあれほど一方的な試合になってしまったのか?の答えは単純で、「ボクシングにおける実力差」があり過ぎた。相手はパンチだけの世界で20年以上、50戦に渡って無敗を続けてきた選手であるのに対し、天心はパンチとキックの両方を使える世界で数年やってるに過ぎない。この差は思いのほか大きい。
同階級ではパンチを当てるのはうまいが非力とされるメイウェザーも、パンチを避けるためだけのディフェンスを極めたパッキャオなどの同レベルの選手を相手にするからそう見えるのであって、大して避けるのがうまくもないキックボクシング出身の天心相手では、その拳は凶器と化す。
メイウェザーが世界一たりえたのは、卓越したディフェンス技術とパンチの当て勘。パンチを極めた傑物たちの中で20年間以上顔を腫らさずに勝ってきたディフェンス技術は並大抵のものではなく、そして非力とされるパンチも後述する理由によって、バカスカと当たる。
まさかこれほどのワンサイドゲームになるとは思っていなかったが、それほどの「実力差」があったと素直に認めるところだろうと思う。「階級差があった」というと何か慰めのように聞こえるが、実際は世界と日本の差、史上最強のレジェンドと国内限定の天才の差だった。
 
 
2、ディフェンス力の差は、ディフェンス範囲の差
少し専門的な話に突入する。
メイウェザーが専門とする「ボクシング」と、天心が専門とする「キックボクシング」では、単に「キック」があるなしというだけではない違いがある。そのもっとも大きな違いは、ディフェンスに表れる。
下の図をご覧いただきたい。端的に言えば、ボクシングとキックボクシングでは、ディフェンスの際の頭の動く範囲が異なる。動かせる範囲と言っても良いだろうか。

ボクシングの場合は相手のパンチだけをとにかく避けるのがディフェンスの要となるため、畢竟その動きは大きくなる。上下は場合によってはベルトの下に近いところまで頭が下がるし、左右の動きもまた大きい。そして図には書いてないが前後の動きも、場合によっては仰け反るほど下がることもある。
一方のキックボクシングは、「キック」があるがゆえに、あまり頭を動かさない。やってみれば分かるが、頭を腰らへんまで下げた状態でキックを放つことは、普通に考えてできない。打たれた時がチャンスでもあるため、ある程度やり返すためには、頭が適度に高い位置にあり、姿勢が整った状態で常時いることが肝要になる。
また、被弾することを考えても、あまり頭を振りすぎることはよろしくない。頭を下げてパンチを避けたは良いが、膝が飛んできてまともに食らってしまった、というのでは、試合は一瞬で終わってしまう。オフェンスを考えても、ディフェンスを考えても、キックボクシングでは上下左右前後ともにそんなに頭は動かない。
同じ理由で、キックボクシングにはボクシングでいうところの「アウトボクシング」をする選手がほとんどいない。足を使ってリングを丸く使ってヒットアンドアウェイ・・・というのは、キックを使う競技には向かない動きになる。
これはこれで両者の競技特性なので別に優劣はない。ただし、今回の試合がメイウェザーに合わせたボクシングルールだったという点で、すでに天心にとっては相性が最悪だった。
メイウェザーは上下左右前後に頭を動かして避けることができる。そもそもそういう世界で20年間以上顔を腫らさずに勝ってきたのだから、天心のパンチはまずもって当たらない。
逆はバコバコ当たることになる。数多のディフェンスのプロフェッショナルたちの顔を捉えてきたメイウェザーのパンチにとって、上下左右前後にあまり動かない天心の顔はただの的となる。いかにメイウェザーが同階級で非力だとしても、当たるならbここはまともに階級のパワーの差が出る。
序盤数十秒をメイウェザーはふざけていたといったが、天心がいくつか見せたフェイントに対して、その拳と同じスピードかそれ以上の速度でスウェー(顔と体を後ろに反らせ、相手のパンチを避ける仕草)をしていた。異常なほどのスピードで、見た瞬間「あ、こりゃヤバイ」と思った。
さすがはディフェンスを主軸として世界一を極めた漢である。
 
 
3、ディフェンス方式の書き換えが出来なかった
となると、天心もメイウェザーと戦うのだから、ボクシングの方式のディフェンスを身につければよかったじゃないかと思うかもしれない。時間は十分に、とは言わないまでも、ある程度はあったのだから、ディフェンスをボクシング方式に切り替えればよかったのに。そうしたらあんなにボコられることもなかったのに。
・・・という意見はとても建設的なように思えるが、ディフェンスの仕方を切り替えるのは、オフェンスを切り替えるのと比べて実はかなり難易度が高い。相手の攻撃を避けたり防いだりするディフェンスの技術は、打撃に対する恐怖が本能的に発生するのを、理性で抑えてカラダを競技に適応した形に反応させることで成り立つ。
 
例えば、パンチが飛んでくると普通の人は目を瞑ってしまう。これを開けたまま避けられるようになるのには、幾千幾万ものトライアンドエラーを経て自身の神経を書き換えねばならない。同様に、蹴りが脚に飛んで来ると、普通の人はかがんで手で防ごうとしてしまう。これを脚でカットできるようになるには、相当程度、神経の書き換えが必要になる。
天心はキックボクシングの天才であり、ディフェンスもキックボクシングのそれにアジャストされてしまっている。それを、ボクシングのそれに書き換えるのには、あまりに時間が足りなかった。
メイウェザーのパンチが飛んできたときに一旦はキックボクシング式のディフェンスが頭をよぎり、それをコンマののちにボクシング式に切り替えようとする。このレベルではそのズレは致命的なダメージとなって天心に襲いかかった。
天心はMMA(総合格闘技)の試合でも何勝かしているので、ボクシングにもうまくアジャストできたんじゃないかという仮説もあるかもしれないけれど、寝技のディフェンス技術を「アドオン」するのと、ボクシング方式のディフェンスに「切り替え」するのとでは、全然違ったということだ。
 
以上のような「差」があったためにあれほどのワンサイドゲームになってしまった。試合後の一転して紳士ズラしたコメントもなんだかなぁという感じだったけれど、幾人もが触れている通り、ホンモノの世界一を知った天心がこれからさらに強くなってくれることを心から願う。願わくば、メイウェザーを凌ぐ伝説になってくれたら。

這い上がろう
「負けたことがある」というのがいつか
大きな財産になる

「スラムダンク」であまりにも有名な山王工業・堂本監督の言葉を、いずれは現実のものとしてくれる選手になってほしい。
長くなりましたがおしまい。
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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。
退かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!
我が生涯に一片の悔いなし!!!
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