8年ぶりにインドで逝ってきました。今回は随一の経済都市ムンバイ。
全く変わっていないインド、大きく変わったインドの両方が楽しめた旅でした。
インド5弱の衝撃をどうぞ。日本が抱える問題点の解決策を持ってる気がするのは気のせいだろうか。。。

***

※主な登場人物

トミー(Tommy):世界屈指の外資系コンサル会社に勤めるエリートな漢。ふとしたきっかけからムンバイに赴任することとなり、今回の旅のホストして活躍。なぜか僕に色々と相談してくる。語学が堪能。ランチームアドミラル所属。

マッチ:某ITベンチャーの若きエグゼクティブVP。カラオケで必ずマッチの曲を歌うところからマッチと呼ばれている。体型もマッチ棒っぽい。息を吸いながら話し続けることが出来る特技の持ち主。ハートが異様に強い。語学は堪能とは言い難いが、魂で話す。

ザック:公認会計士に教える公認会計士。フルマラソン3時間30分切り(サブ3.5)まであと8秒というとても惜しい漢。会計士仲間の先輩には『おしゃべりクソヤロー』言われるほど普段は饒舌で僕から見てもとても話が上手いのだが、今回の旅では貝になっていた。ランチームアドミラル所属。語学は堪能に見えていたのに、結構とんでもない実力だった。

エンペラーの会:僕が主催する勉強会。共に学ぶ同志。

三人に共通するのは、全員心から尊敬すべき漢たちであり、卓越したビジネスパーソンでもあるということである。

***

エンペラー、解散

ザックが去った後に入ったインド随一の高級さと伝統を誇るタージマハルホテルで、僕たちはエンペラーな空間を楽しんでいた。
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トミーが入店早々にウェイターのトーマスをギタギタにしてしまったため、少し複雑になった日印関係から生ずる報復を懸念していたが、頼んだビールやカフェオレはわりとスッと出てきたし、サーブするときのトーマスはにこやかだったので、僕は安心していた。
そんな安心が慢心に変わったのだろうか。
僕は、鞄から伝家の宝刀、『クレターズのポップコーン、キャラメル味』を出した。
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今回、トミーにはインド滞在中のロジスティクスからファイナンスからガイダンスから、全てを委ねることになっていたので、何かしらお土産を持っていこうと思っていた。
事前に米の打診はあったので(インディカ米はもうイヤらしい)、それはザックとマッチに持っていったもらった。僕は、自分の食癖もあるのだけれど、盲点となりがちなお菓子をもっていくことにした。
海外のお菓子というのは、大体が異様に甘いか異様にスパイシーか異様にデカい。味自体も大味で、身体がどんどん悪くなっていくかのようだ。『たべっこどうぶつ』や『キティランド』のような、絶妙な甘さと塩加減のお菓子など、まず口にすることは出来ない。
なので、日本を代表するお菓子の一つである『ヨックモック(のセットの食べかけ。途中で食べたのは僕とザック)』、およびこのクレターズのポップコーンを持っていくことにした。
後で調べたらバリバリの外資系のポップコーンだったのだけれど、一度食べ始めると止まらないキャラメルの甘さとサクサク感が素晴らしいので、ぜひトミーにつかの間の天国を味わってもらおうと思ってもってきた。本当はチェダーチーズとキャラメルとのミックス(左側)を買って至高のフュージョンを楽しんでもらいたかったのだけれど、売り切れだったためキャラメルのみの袋をしこたまかって、トミーとクマール用とした。
 
さらにこっそりとキャラメルポップコーンを盛った僕は、畢竟モグモグと食べ始めた。カフェオレで苦々しさの残る口に、甘いキャラメル味が染みる。そして甘いキャラメルを堪能した後は、カフェオレで口の中をさっぱりさせたくなる。そうすると今度は甘いものがほしくなり・・・
という終わりのない至福のループに差し掛かろうとした瞬間、
『ミスター?』
と声がした。
トーマスだった。
今まで見せたタージマハルホテルにふさわしい重厚なウェイターの表情から一変、
『こんなところで食べて言い訳ないだろ、こんの、ド素人の貧民が!・・・』
と、鬼の形相で僕のポップコーンを嗜める。しまえと言われて皿に出したポップコーンを泣きながら袋に戻す。
勿論、僕だって日本でこんなことをしてるわけじゃない。そしてインドだからとナメてやらかしてるわけでもない。
でも、トイレの水力はすこぶる弱く紙がないのが当たり前、人に道を聞いたら間違ってるのが当たり前、時間を守らないのも当たり前、日本で当たり前のことが何一つ叶わないのが当たり前のこの万事ユルユルな国で、ポップコーンを、しかもキャラメル味のポップコーンを少しぐらいなら食べても怒られないんじゃないかと思ってしまった。
が、さすがはムンバイ随一の高級ホテルのバーのウェイターのトーマスである。
僕が不審な動きをしているのを察知して、嘲笑しながらきっちり押さえるところは押さえてきた。しかしそのしてやったりな表情を見ると、先ほどトミーにこてんぱんにやられたことと今回の検閲が、無関係なものとは僕にはとても思えない。
僕は、トミーが振りかざしたロジックの間接的な被害者になった。
***
僕はしばしうなだれておとなしくしていたが、一度食べ始めたクレターズのキャラメルポップコーンの魔力は強烈だった。禁断症状が起きたのである。
カフェオレを飲んでいると、どうしてもキャラメルポップコーンを口にしたくなる。僕はテレビで勉強したCIAの目線の配り方、気配の消し方を完璧に模倣し、ごく自然な形でトーマスの居場所を的確に見極めながら、ノールックで鞄の中のキャラメルポップコーンに手を伸ばし、何か考え事をしているかのようなていで両手をマスク状にして口にかぶせた。
うむ、これなら全く怪しくなく、ごくごく自然な形でキャラメルポップコーンが食べられる。もう僕は、一般常識とか信義とか、日本では大事にしているはずの価値観を、この国では大切なものと思えなくなっていた。
マッチもトミーも、トーマスの検閲に怯えながらそこまでしてキャラメルポップコーンに手を伸ばす僕を最初馬鹿にしていたが、だんだん羨ましくなってきたようで、同じような格好でそそくさとほおばり始める。
社内で神と崇められている(と自称している)というベンチャーのVP、マッチ。
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超絶エリートな外資系コンサルに勤めているトミー。
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手のひらにごく自然に隠されたキャラメルポップコーンを大事そうにほおばる二人。
世間一般的には成功者と呼んでも良いと思われる、心から尊敬しているこの二人を見て、僕は思った。
 
 
 
 
 
こいつら、バカだ。。。
 
人のフリ見て我がフリ直せとはよく言ったもので、僕はこのとき初めて自分がなぜトーマスの逆鱗に触れたのか、分かった気がした。
※タージマハルホテルさん、調子に乗りすぎました、ごめんなさい。もしこれで日印関係に問題が出るようなら、エンペラーの会からはトミーを派遣して問題解決に当たらせます。
 
***
ウェイタートーマスとの激闘を経て無事キャラメルポップコーンを口に運ぶことに成功した僕たちであるが、ふと自分たちの非常識さに気づいた後は、おとなしくポップコーンをしまい、真面目一辺倒なトークになっていた。
自分たちの未来について、日本の未来について、自分たちが大切にしている価値観について。
エンペラーな会話を、エンペラーな空間で交わし続ける。またこういうことをやろう、次はあの国でやろう、などと、荒唐無稽な目標が次々と掲げられていく。出来るとか出来ないの前に、やりたいことをやる方向で話し合える仲間との時間。この上なく幸せな時間だ。
夜はふけていき、名残惜しいながらもタージマハルホテルを後にした僕たちは、ホテルGODWINに戻り、最後の語らいをすることにした。
刻一刻と、マッチが帰る時間が近づいてくる。
午前1時を過ぎて、ついにマッチが旅立つこととなった。昨日の昼に到着して、実働2日で帰る激務な漢マッチ。到着後2分でクマールの心を鷲掴みし、少し迷惑がられるほど話かけていたマッチ。人間と人間は言語は違えど、魂で会話出来るということを証明したマッチ。漢に必要なのは、停滞や後退ではなく、全身で前進することだとザックに背中で示したマッチ。
そのマッチが帰ってしまう。
最後までほとんど息継ぎをしないまましゃべり続けて生物の限界を越えた姿を見せたマッチは、来たときとそのまま同じ騒がしさで去っていった。いるときは静かにしてほしいと思っても、いなくなると空気や水と同じように渇望してしまうのが、マッチという漢だった。
トミーと二人になった僕は、一人一人と帰国するにつれ寂しそうな顔を見せるトミーを一瞥しながら、眠りについた。
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最終日。この日は、念願のトミーの家を見学したあとに、昨日チラ見したスラムをもう少し詳しく知るツアーに参加することとなった。
トミーの家は、いわゆるムンバイ的には比較的高級な住宅地で、セキュリティを考慮した作りになっていた。確かに守衛がいたりエレベーターがちゃんとしたりはしていたものの、やはり日本に比べるとどこか殺風景で、ブツが揃っているとはいってもとても住みにくそうな家だった。
とても細かいことを言うと、トイレは水洗だし紙もあるのだけれど、水力は弱く、紙のポジションは身体を180度捻ったところにある。ガスボンベは、台所に剥き出しに置いてある。高級住宅地と言っても、水を普通に飲むことはリスク管理上あり得ない。
こういう細かいところが違うだけで、毎日毎日仕事に追われるトミーの身体と精神は蝕まれていくのだと思う。ラストワンマイルの心配りが日本にはあり、インドにはない。お金はあっても決して彼らインド人が提供出来ないものを、日本では一定レベル以上の場所であれば享受できる。
それがない状況が一年続き、しかもそこに日本以上のパフォーマンスを求められる仕事が乗っかってくる。どれだけツラく厳しいことなのかは、想像するより他ない。
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許可を得て、トミーの部屋の写真をいくつか撮らせてもらった。
どうやら、いつ何か素敵なことが起きても大丈夫なように、しっかりとしたダブルベッドを購入していたようだ。
起きるかどうか分からない事象に関しては、起きる起きないではなく起きることを前提としてリスク管理をするという、保険家も真っ青の周到さで、自身の春を待っているようだ。
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***
トミーはスラム街ツアーへと向かうためのタクシーを手配してくれていて、電話でドライバーに何か話していた。
一応は公的なリムジンサービスの会社のドライバーのはずなのに、相手はほとんどトミーの言っていることを理解していないようで、トミーは何度も何度も同じことを言って、ようやく自分の家の場所を伝えることができたようだった。
効率の悪い電話を終え、ため息をつきながらこちらに来たトミーは、机の上に転がっているブツを見て、もう一度ため息をついた。
僕が前日に日本からのお土産としてプレゼントしたクレターのキャラメルポップコーンの袋である。(前の日にタージマハルホテルで食べたのは別の袋)開いた状態の袋を片手に、食ってみろとトミーは僕に差し出してくる。
本来ドロドロなはずのキャラメルがポップコーンにコーティングされているのに、驚くほどサクサクに仕上がっているのが僕の持ってきたクレターポップコーンの特徴だ。なのに、驚くほどのサクサク感は完璧に失われており、驚くほど湿気ってしまっていた。
トミーは、もう一度ため息をつきながら言う。言葉のニュアンスは若干違えど、かの空条承太郎が吐くやれやれ感だった。
『やれやれだぜ。見ただろ?公的なタクシー会社だって、俺の完璧な英語すら理解できない。何度も同じことを確認しなければ、インド人はとんでもない方向に物事を進めてしまう。カレーに食傷気味になってもカレーが続き、水や生ものには日本じゃ必要ないリスク管理をしながら接し、日本語のシャワー触れただけで恍惚としてしまう俺の状況、分かるかな?四季のある日本と違って、こちらは二季しかないんだ。雨が降らない季節と、雨が降る季節。季節なんてもんじゃない。ただ暑い中で少しの変化があるだけだ。ほら、見てみなよ。ムンバイは湿気がスゴくてさ。昨日開けたばかりのポップコーンだって、もうこのザマさ・・・』
確かに、日本からの贈り物であるはずのポップコーンですら、こんな短期間に湿気ってしまう過酷な環境にいるトミー。
僕はトミーが置かれた状況のあまりの過酷さにしばし呆然として、本来ならば彼に気づきを与えるべきこのたった一言が、どうしても言えなかった。
 
『トミー・・・
 
 
ポップコーンに限らず、
 
 
一日開けたままにしたら、
 
 
何でも湿気るんだよ。
 
 
ダメだよ袋閉じとかないと!!!』
 
トミーは当たり前のことすら判断出来ないぐらい、相当弱っているようだった。この国に到着した3日前に、『徒歩5分のところにカフェがある』と言ったのに『オートリキシャで1時間のカフェ』に連れていかれた時点で、トミーの変質に気づいてあげるべきだった。
過酷な環境下では、人は少しずつ少しずつ、狂っていく。
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僕とトミーは、ようやっと合流したタクシーに乗って、スラム街の中へと突入するツアーに出発した。
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世知辛い世紀末にこのエントリを読んでいただいたことを感謝します。

引かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!

我が人生に一片の悔いなし!!!

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