※本シリーズは、日本一易しい「弱者のための野辺山ウルトラ完走マニュアル」である。とにかくどんなタイムでも良いから完走したい!という人は参考にしてほしい。

※レース中に声をかけてくださった方、FB申請お待ちしてます。レース中は余裕がなく失礼しました。

(前回までのあらすじ)6年連続6回目の出場となる、野辺山ウルトラマラソン。安定の3分前ゴールで、通算成績を4勝2敗と勝ち越すことに成功!共に走った16人の戦友たちとの悲喜こもごもなストーリーは、どのようにして紡がれていくのだろうか。戦いが今、始まる。

 

(過去のレース記録、今回のチームのキャラ紹介はこちら)

***

2019年5月18日、野辺山前日入り

レース前日となる5月18日に野辺山入りをすることになった。修羅のレベルになると当日入りをしたりとか、前日からテントを張ったり車中泊したりとするらしいのだけれど、俺たちは民間人なので大事を取って宿を確保した。チーム「プロージット」、チーム「サムライ魂」と2つのチーム合計で17人が集う今回の大会。走り始めた2014年にはたったの6人で出場したことを思えば、隔世の感がある。

途中の談合坂では、漢気じゃんけんでソフトクリームを賭けることとなった。「僕、じゃんけんの勝ち方を統計学的に見つけたんですよ〜、知ってますか?必勝法?」と頭のおかしいことをウィスパーするシンジ(プロバンク社の重鎮。写真左。昨年の野辺山ウルトラを完走)がどうしてもどうしてもとゴネるので、毎度やりたくもないのにイベントがあるごとに漢気じゃんけんが開催される。

 

元来、じゃんけんとは勝ち方もなにもないただの1/3の戦いのはずなのに、なぜかプロバンク社の面々と対戦すると負けが込むので、俺は極力戦わないようにしている。「勝てない戦いはしない」とは、「キングダム」における名将・王翦の行動指針である。百戦して百勝するのは、あくまで二流。一流の人間は、まず戦う必要があるかどうかを考え、可能な限りそれを避ける。そして、万一戦うことになったとしても、必ず勝てる戦いだけを選ぶようにする。

俺はいずれ大将軍になる漢なので、不要な戦いはしない。それでなくても、これからとんでもない戦いをしなければならないのだ。意味のない運の吐き出しはしたくない。・・・のだが、一度言い出したらパリピには通じないようだ。いつのまにか目の前にはソフトクリーム屋さんが出現しており、いつの間にか円陣が形成され、そして掛け声が始まった。こういう時は普段味方のはずのゼッキーも、役に立たない。

 

過去の歴史上の悲劇はいつの時代も、無知な大衆が意味なく扇動された結果として起きた。誰もがおかしいと思っていることに異を唱えることすら許されず、最前を目指して最悪の結末を迎える。「大衆は常に愚かである」、とは誰の言だったであろうか。そして、俺たちもいつのまにかその愚かな大衆に成り下がりつつあった。

ド派手な色のTシャツを着たおっさんたちが、真剣にじゃんけんをする。民衆がYoutuberを見るような目をこちらに向けてくる。違う、俺たちは戦いに行くんだ。注目してほしいわけじゃない。ソフトクリームを食べたいのであれば、一人で一個買えば済む話なのに、どうしてもそれができない。一度動き出した歯車は、止められない。

 

決勝に残ったのはパリピのゼッキーと、質実剛健が信条のビル。

 

漢気じゃんけんなので、勝った人間がオゴることになる。そして、漢であるからには敗者は残念そうな顔を、勝った側は誇らしげな顔で喜ばねばならない。

 

勝った結果、涙目で喜びを表現するビル。支払いの際も笑みが溢れる。

 

冴えないおっさんたちが、ソフトクリームを並んで食べている。ビルは一人一人に「おかわりは?」、「好きなだけ食べてね?」と涙目のまま聞いて回っていた。本当の漢の器を見た気がした。

 

ちなみに、真の漢気を見せたビルとは対象的に、こちらは良くない例。

漢気じゃんけんで負けた(オゴらなくて済む)のに、不必要に喜ぶのは良くない。勝者への敬意も、自分が敗れたことへの反省も微塵も感じさせない無邪気な喜び方。こういうのは漢気とは言わないし、不惑の四十を過ぎてまだまだ大局観が足りないと言わざるを得ない。着手小局、着眼大局。

***

この日のスケジュールは、

10:00 プロバンク社に集合、事前の戦略ミーティング

11:00 昼食

12:00 出発

15:00 会場に到着、前日受付

17:30 ウェルカムパーティ

21:00 就寝

となった。

 

戦略ミーティング冒頭のスピーチでは、こんな話をした。

「不都合な真実ながら、勝敗の90%はすでに決まっている。これまでに積み上げてた距離や経験で、ほぼ完走の可否は決まっている。しかし残りの10%は、今日授けるこの戦略如何によっておそらく決まる。やれることはまだある。それをやった人間が勝利を掴む。さぁ、始めようか。」

実際問題として、昨年共にゴールしたプリンス海老澤、シンジ、ゼッキーはいずれも、この「残り10%」の原理原則を忠実に守ることで、6分前ゴールという偉業を勝ち取った。数分前ゴールを量産するという分野では、おそらく野辺山ランナーで最上位クラスにいる俺が作ったプランは、大雑把な性格の割にはかなり緻密に作られている。

だいたいこんな感じの資料という一例。来年からは販売する予定。

1時間を余すところなく使い切って、勝利のための10%を全力で伝える。補給、メンタル、レースプラン。いずれも欠かせない項目ばかりとなった。どれだけ伝わったかは、明日出る結果が証明してくれるはずだ。

***

これまでの「90%」を振り返る

現地に着くと、まずは1枚集合写真を撮った。(てっしーだけは、飼ってる馬に餌をあげなきゃとかで、前日入りができなかった。)何気ない集合写真ではあるが、感慨深い。

俺、プリンス海老澤、シンジ、ゼッキー以外の全員は、まだ誰も野辺山を完走したことがない。戦力的には総勢17人のうち、野辺山含めたウルトラ初参加が10人おり、サムライ魂の面々に至ってはランニング歴がわずか10ヶ月ほど。うち一人は、フルマラソンすら完走していない状態でここに来ている。全員ど素人だったのに、今日ここに立っている。これってすごいことだ。

俺(監督)とプリンス海老澤(顧問)は、何も敗残兵を量産しようと思ってこの17人をここに連れてきたわけじゃない。むしろ、勝算ありと見て今回の企画をした。「野辺山を制する者はウルトラを制す」と言われるほどに、野辺山ウルトラのコースはレベルが高い。徒手空拳では敗色濃厚になってしまうが、監督と顧問からなる経営陣からすれば、「勝てる戦い」にするための準備を十分にしてきたつもりだ。

 

本番前日に「残り10%」を戦略として授ける形となったが、逆に言えば、「90%」の積み重ねが今日までにできていなければ、全ては無駄となる。「心技体」という言葉が日本語にはあり、「一番大事なのは心」などともっともらしく言われるが、あんなのは嘘だ。

笑いながら適当に走る川内優輝選手と、命をかけながら走るそこの貴方がマラソンで勝負したとして、どちらが速いだろうか?ほぼ100%、川内選手の勝利となるはずだ。「心」が成否を分けるのはあくまで最後の「10%」の段階での話であり、そこに至るまでの「90%」の道のりでは、まず「体」を鍛えることが大事。

 

マラソンで言えば、「体」に該当するものは距離である。これを踏まないことには、どれだけ完走を期したとしても徒労に終わる。俺が野辺山完走の目安としているのは以下。これを守れば完走は近づくし、そうでなければ奇跡が起きるのを待つしかない。

1、直近のフルマラソンで4時間30分以内。4時間45分でギリギリかもだけどちょっときつい。

2、直近3ヶ月で月150km走る。直近2ヶ月だとギリギリかもだけどちょっときつい。

 

昨年夏に走りはじめ、今年1月に初マラソンを終えたばかりのメンバーが多かったのだが、その際のタイムは一部を除き軒並み4時間45分から5時間15分程度。野辺山完走のための参考記録には及ばない。1を満たせないなら2をやろう、ということで、「多摩川50kmラン」や、「峠走25km」などの企画をいくつか打った。

全員が素人であったため、全てがうまくいったわけではないけれど、それぞれに努力を重ねていることが手に取るように分かった。ほんの数ヶ月前に5kmで疲弊し、10kmで死にかけていた面々が、直前のトレーニングでは峠を平気で走るようになっていた。かの名将・安西先生は桜木花道の圧速の成長をして「道楽」と呼んだが、まさにそんな名詞にふさわしい気持ちになっていた。

 

個人的な感覚として、ウルトラマラソンに挑戦するプロセスには、目標達成の全てが詰まっていると思う。目標達成の成否を決める原理原則は、実は2つしかない。世の中のあらゆる目標達成系の本は、この2つさえ分かっていれば、何も要らない。

1、やることを決める。

2、決めたことをやる。

ザッツオール。これ以上でも以下でもない。これで全てだ。

野辺山ウルトラをポチり、その完走のために必要なメニューをこなす。文字にすればたったこれだけ。しかしたったそれだけのことを、多くの人ができない。今でこそ全員がこの野辺山の地にたどり着いたが、練習を開始した当初は、それはそれは色々言われたものだった。

 

「え〜、100kmなんて無理ですよぉ〜。なんでやらなきゃいけないんですかぁ〜?だいたい僕、イギリスに旅行が決まってるんですよぉ〜」と、エロい声の大アンディはセレ部のくせに文句ばかり言っていた。

「走ることで得られるものはなんですか?それは価値あるものですか?エビデンスは?」と、弁護士のスバルは意味のないROIの追求ばかりをしていた。

「あのさぁ、そんなことより飲みにいこうよぉ〜」とエロい声でエロい髪型のてっしーはすぐに話を逸らそうとしていた。

「は、は、は、走ったら結婚できますかね?」と、婚活中でゾマホン級に早口のクロちゃんは、自分の未来のことばかり気にしていた。

「うぉー!チョベリバー!マジすげー!」と、声が無駄にデカくボキャ貧のマッキーは、ただただうるさかった。

そんなメンバーたちが、「明日は完走しようぜ!」と、ここ野辺山に立っている。なんたる奇跡だろうか。赤木キャプテンと木暮君しかいなかったバスケ部が、ついに全国大会で山王戦を前にした時のような高揚感。それを監督である俺と顧問であるプリンス海老澤は感じていた。

さぁ、事前説明会だ!

***

退かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!
我が生涯に一片の悔いなし!!!

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事