※本シリーズは、日本一易しい「弱者のための野辺山ウルトラ完走マニュアル」である。とにかくどんなタイムでも良いから完走したい!という人は参考にしてほしい。

※レース中に声をかけてくださった方、FB申請お待ちしてます。レース中は余裕がなく失礼しました。

(前回までのあらすじ)各々が練習を積み、ついに野辺山ウルトラ前日を迎えたチーム「プロージット」とチーム「サムライ魂」の面々。恒例の漢気じゃんけんをし、集合写真を撮る。ど素人からたった10ヶ月でこの場に立つまでに成長した面々を見て、少しセンチメンタルな気分になる俺。果たして、この中で何人がゴールまでたどり着けるのだろうか?

 

(過去のレース記録、今回のチームのキャラ紹介はこちら)

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またも甚大な虎舞竜発生!!!

少し、告白をしたい。前回、目標達成のツボとコツは、究極のところ、この2つに集約されることを俺は述べた。

1、やることを決める。

2、決めたことをやる。

 

そして、野辺山ウルトラのプロジェクトに置き換えた場合に、完走を目指す上で満たすべき条件はこちらであることも述べた。

1、直近のフルマラソンで4時間30分以内。4時間45分でギリギリかもだけどちょっときつい。

2、直近3ヶ月で月150km走る。直近2ヶ月だとギリギリかもだけどちょっときつい。

 

「これが野辺山完走のための必達項目だ!分かったか兵卒ども!」とフルメタル・ジャケットのハートマン軍曹のごとく恫喝を重ねながら、ど素人の農民たちを野辺山ウルトラで戦える飛信隊級の兵隊に育て上げつつ、自身の修練も積んでいた。

・・のだが、結論から言うと、俺は上記の「野辺山基準」を満たすことなく、本番を迎えることになってしまった。人にはやれやれと圧力をかけていたのに、自分はひと項目すら満たせずに、5月19日に至ってしまった。

サボっていたわけじゃない。直近だけ見れば、「走り始めた4月第2週から」レース直前まで、通算267kmを走ってきた。確かにこの1ヶ月強はGWも潰して走ってきたし、直近では50km多摩川ランや25km峠走も頑張った。毎日筋トレもして、体重も88kgから85kgまで落とし、最低限戦える体制を整えて、本番を迎えた。

 

しかし、じゃあその前は何してたの?と言われると、答えは「寝込んでいた」としか答えられない。ふとしたことから年末からおかしくなってきた体調は1月に悪加速し、2月3月は花粉症も併発し、誰も信じてくれないが元々のカラダの弱さもあいまって、なんでもないようなことが幸せだったと思うぐらい動けなくなってしまった。俗に言う、健康虎舞竜ある。

3週間に渡り味覚がイカれて味が分からなくなり、花粉症と風邪で咳が止まらなくなって呼吸困難になり、どれだけ寝てもカラダがだるく、そしてハゲた。これは堪えた。AGAであれば頭頂部からハゲるとのことなのだけれど、あたくしの場合はなんとサイドからオーバーラップ!おいおい全盛期のカフーとロベカルかよと思うぐらい、両サイドがイカれてきた。

 

俺のレース遍歴は、虎舞竜遍歴と同居している。少し思い返してみただけでも、結構な虎舞竜に巻き込まれている。

2014年のアイアンマン:レース2週間前に落車し、レース前日に朝シャンしてたら肩を肉離れ。

2015年の佐渡トライアスロン:レース数日前に階段トレしたら前日まで筋肉痛で動けず。

2016年の野辺山ウルトラ:風邪を引いて絶不調。

2018年の五島トライアスロン:落車して肩を脱臼。

そして今年は、風邪と花粉とハゲ。実力がない人間ほど、色々な虎舞竜に巻き込まれるのが世の常だ。神はいつになったら、俺に万全な状態で戦わせてくれるのだろうか。

 

しばらくは戻るかと思って帽子をかぶったりしてゴマかしていたのだけれど、いよいよそれじゃやってけないというところまできたのが3月。宇多田ヒカルは「Wait&See」で言っていた。

変えられないものを受け入れる力、そして受け入れられないものを変える力をちょうだいよ

 

俺に残った選択肢は、ハゲをなかったことにして、いつ起こるとも知らぬ現状復旧を待つことではなかった。自分がハゲたことを認め、そして、できることをする。それ以上でもそれ以下でもない。

過去10年以上、髪型に1ミリもこだわりを持っていなかった俺は、1000円と10分で髪型を整えられるQBハウスで十分だと思っていた。しかしこの難題は、おそらくQBのおっさんたちでは無理だろう。時間をかけて問題解決を検討してくれる、プロフェッショナルの手に委ねなければならない。

そうだ、美容室に行こう!

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真のプロフェッショナルとは

10年以上ぶりに美容室に行った俺は、おそるおそるイケメンの美容師さんに相談した。「ハゲちまいました。なんとかなりますか?ツーブロック的な感じで、威圧感なくおしゃれな感じで坊主にしたいんですが・・・。」

したら、その美容師さん、ドンと胸を張って言うではないか。「任せてください!なんとかしてみせます!」

 

今の時代、顧客が抱える問題を解決する能力を有しているというだけでは、プロフェッショナルとしては不十分である。昔で言えば、ゴッドハンドと言われる外科医や、数字にめっぽう強い税理士で、しかし顧客との会話を1ミリも重視しないという種類の人たちがいた。

彼らは愛想とは無縁で、前置きなくいきなり本題に入るゴルゴ13のような人間であり、俺が問題を解決してやるから黙っとけ、という感じであった。事実、プロと素人の知識差情報差は圧倒的であり、顧客側は黙って彼らに命を預けるのが礼儀であった。しかしこういったスタイルは、今の時代には受け入れられなくなりつつある。

医者といえど、あるいは税理士といえど、今や顧客からじっくりと見定められる側であり、高度な専門業であるのと同時に、一種のサービス業であるという自覚と認識が必要である。歯医者の数はコンビニの数を上回り、赤字の病院は次々と潰れている。税理士の敵はfreeeやMoneyforwardになりつつある。

顧客を見て、顧客を知る。ドラッカーが昔から言ってそうな原理原則が、特権階級と思しき職業の人たちにも等しく求められる時代になったと言える。そして、この日担当してくれた美容師さんは、間違いなくサービス業の極みにいる人だった。高度な散髪スキルを持つだけでなく、根深い顧客(=俺)の悩みに耳を傾け、そして解決策を提案する。

完璧ではないか。

 

俺は、自分の命を美容師さんに預けることにして、そっと目を閉じた。

イメージは伝えてある。普段ハサミでしか毛を切ることがない頭に、バリカンが入れられる。ドキドキして目を開けそうになるが、そのたびに美容師さんの柔和な顔、しかしプロフェッショナルとして相当な研鑽を積んできたであろう自信、「大丈夫です」と力強く言ってくれた言葉を思い出して、つかの間の休息をとることにした。

これまで寝込んでいた日々、治らない体調、いつ仕事やトレーニングに復帰できるかも分からない恐怖と戦い続けてきた俺は、少し疲れていたのかもしれない。目を閉じているだけのつもりが、いつの間にか眠りにおちていた。肩肘張って殺気立っていたそれまでが嘘のように、俺はリラックスしていた。店舗の落ち着いた雰囲気も、一役買っていたせいか、いつの間にか1時間ほどが経過していた。

***

「お待たせいたしました、できました!」

美容師さんが言う。そうか、もう出来たのか。「おしゃれ坊主」のイメージは伝えてある。できれば、クリロナのような髪型が良い。ただまぁ、頭頂部の髪の毛が少し短いから、ここまでかっこよくはならないだろうな。

 

同い年ということで、ATSUSHIの髪型も良い。ただまぁ、俺は金融機関勤務だし、ここまで攻めちゃうとちょっとやりすぎかな。ソリコミは入ってなかったはずだから、EXILEには入れないだろうな。

関連画像

 

間を取って、全盛期の中田ヒデぐらいの髪型になるのかな。これだったらまぁ、なんとなくわかる気がするしセーフでしょう。金融機関の人間としても、コンサルタントとしても全然アリでしょう。

 

小堺一機が口ずさみそうなリズムに乗って、クリロナか、ATSUSHIか、中田ヒデかの三択の髪型を思い浮かべながら、俺はそっと目を開けた。

光が眩しい。ずっと閉じていた瞳には、店舗の光は眩しすぎた。

少しずつ目が慣れてくる。

さぁ、新しい俺、こんにちは。

鏡の中に、新しい俺が見えてくる。。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ???

 

 

 

 

 

だれ???

 

 

 

 

 

なぜ???

 

 

 

一瞬目を疑った。聞いてた話と違う。

てか、想像の域を超えてる。

なんでこうなるんだ。。

 

俺、言ったよね?金融機関勤務だって!?

俺、言ったよね?おしゃれにしてくださいって!?

俺、言ってないよね?アルジェリア代表のサッカー選手のディフェンス激しすぎてすぐ退場するヤツみたいにしてくださいなんて!?

 

爆鳴りする心臓の音をなんとか制御し、混乱する脳みそをかろうじて押さえつけ、そして改めて振り返る。8.6秒バズーカーに今こそ来てほしい!心からそう願った。こんなに「ちょちょちょーっとまって、おにさーん」な気分になったのは初めてだ。

「分かりました!」と言っていた美容師の兄ちゃんは、なんにも分かっていなかった。「大丈夫です!」と言っていたが、それは俺にとって大丈夫という意味ではなかった。「終わりました!」と言っていたのは、世界の終わりて意味だった。ねぇ、バカなの?なんなの?兄ちゃん、素人なの?てかこれが良いと思ったの?ねぇ、なんでなの?父ちゃん母ちゃんに何習ったの???

色々な思いが去来したが、俺は一言も口に出さなかった。唯一言えたのは、「し、仕上がってますね・・・」という、可も不可もないコメントだけだった。起きてしまったことは仕方がない。美容師のお兄さんが真のプロフェッショナルでもなんでもなく、ただの経験の浅い兄ちゃんであったことも、いまやもうどうでも良い。

どう着地させるか、それが大事だ。

 

迷った挙句、てっぺんに生えてたツノを取ってもらい(美容師の兄ちゃんはものすごく渋々切ってくれた)、結局おしゃれでもなんでもないただのカツアゲ屋みたいなのが出来上がった。

ある意味、これでやぶれかぶれになったのか、あとは前に進むだけだという覚悟が決まった。幸い、体調も急激に巻き返してきており、あとは1ヶ月ちょっと後に迫った野辺山に向けて走るだけ、という段階にまで回復した。
失ったものはデカイ。筋肉はすっかり落ち、しかし味覚欠損の反動で体重は増えてしまった。手持ちの武器はあまりに寂しい。しかし!やるべきことをやるだけだ。ある意味シンプルだ。
足りないもの、悔いることはたくさんあれど、俺は完走への最短距離を走ることにした。ただひたすら、距離を積め。俺にできるのは、ただそれだけだ。
地球のみんな、オラに元毛を分けてくれ!!!
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退かぬ、媚びぬ、省みぬ!!!
我が生涯に一片の悔いなし!!!

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